123.見るもののない場所
「うわぁ〜、これは想像以上に田舎だね」
僕たちが訪れた国、獣国アゼルス。初めて訪れる国だからどんなものかと期待していたけど、想像の100倍は田舎だった。
石造りの家が殆どなのだが、どれも建築技術が拙く、ましなのは中央にある王城ぐらいだった。
入り口を守る兵士もお粗末なものだった。出入りが殆どないせいか、兵士同士で喋りながら立っていたし、僕たちを見ても少し調べただけで通してくれた。普通ならあり得ない。
街の中ものどか過ぎて見るものがない。店が点々とあるが、それも僕たちの国や他国に比べれば天と地の差があると言っても間違いではないだろう。なにせ、どの店にも魔道具が置いてないのだから。
クロノの研究が盗まれたお陰で、他の国々では一般市民でも何らかの魔道具を持っている。それなのにこの国はどの家も店にも置いておらず、唯一あった少し大きめの飲食店ですら、かなり型の古いものだった。
「…….なーにもないですね」
「……そうだねー」
街に入ってから1時間ほど歩き回って見たけど、結果はそんな感じの評価しか出なかった。見るものがなさ過ぎてこんなに辛いとは思わなかったよ。唯一面白いと思ったのが、広場のベンチに座る僕たちの前に立つ獣人の子供たちだ。
話に聞いていたように、人間に耳だけをつけたような子もいれば、犬が立っているように見える子もいる。ただ、それだけなら大人の奴らも変わらないのだけど、この子たちは
「ねー、ねー、お兄ちゃんたちもしかして山の向こうから来たのっ!?」
と、ワクワクした顔で尋ねて来たのだ。その言葉に流石の僕も驚いたね。年齢は5.6歳程だろうか。キラキラとした目で尋ねてくる子供たちが5人。戸惑い僕を見るマルスとティアラを置いといて
「どうしてわかったんだい?」
と、尋ねてみた。子供たちは皆が顔を見合わせて
「お父さんたちと匂いが違うから!」
と、元気よく言う。これはまた獣人らしい回答だ。話を聞くと、自分たちの年齢の子供たちと外から帰って来た獣人たちは違う匂いらしいのだけど、国を出ずにずっといる大人たちはどうしてか皆同じ匂いがするらしい。だから、違う匂いがする僕たちは外から来たのだと思ったのだそうだ。
「どう思う、ティアラ」
「確信は出来ませんが、かけらの力が関わっているのかもしれませんね」
ティアラも僕と同じ事を思ったようだ。子供たちの言い方だと、外から帰って来た獣人以外全員が同じ匂いだと考えてもいいだろう。
「ねーねー、どこか来たの? 外ってどうなっているの? 広いの?」
そんな事を考えていると、子供たちがそんな質問をして来た。……そうか、この国の子供たち、子供たちに限らず、この山の向こうを知らないんだよね。この山の中で全てが終わってしまっている。
……昔の僕みたいだ。そして、マルスたちとも似ているだろう。もし職業が今のものでなかったら、あのまま村で使い潰されていたに違いない。
マルスたちもあのままでは殺されていて、ティアラは貴族の慰み者になっていただろう。それでも、この子たちとは違って外には出る事が出来たのでまだマシなのかもしれないが。
キラキラした目で外の世界の事をせがんでくる獣人の子供たち。僕は子供たちに視線を合わせるためベンチから降りてその場に座る。その様子をマルスとティアラは驚いて見てくるけど、それを無視して外の事を子供たちへと話して行く。さて、どこから話していこうか。
◇◇◇
「よくぞ集まってくれた、諸君」
床や壁面、全てが白い空間に、大きな円卓の机が1つ置かれただけの部屋。そこには様々な国の代表たちが集まっていた。
その中で一際豪華な椅子に座る男は、フィスランド聖王国聖騎士団長であるレイモンド・バンドラスである。金髪に鼻の下に髭を生やした男は、偉そうに円卓に足を乗せて周りの人間を見ながらそう言う。
周りの人間たち全ては、聖王国の同盟国若しくは属国から送られて来た各国の大使たちである。今回は緊急会談という事でこの場に集められたのだ。
「この場に集められた理由は事前に通知していた通りだ。何と、大陸を治める我が国、フィスランド聖王国に対し、宣戦布告をする不届きな国が現れたのだ! それも、聖女様の両親を操り伝令をさせた後に殺すという残虐な方法で!
この事に女神フィストリア様、悲しむと同時にかなりの憤りをお見せになられたと言う。そして、聖王陛下の名の下に聖戦を行われると発表された!
そのため、各国には通知の通り兵を出してもらう。これはお願いではなく、命令になる。なぁに、不安になる事はない。女神フィストリア様はこの度の聖戦のために、天使様を数百、それを率いる四大聖天使様も参加されると言う。各国の兵と天使様たちの力があれば勝ったも同然だろう」
そんな話が続けられる中、自分は1人退室する。誰にも気づかれる事なく。さて、聖王国も準備を始めた事だ。この事を主人に報告せねば。




