122.獣国へ
「おおー、これは良いねー。自分で空を飛ぶのとはまた違った光景だ」
『ククッ、儂の背に乗るなぞ、生きていた時を含めてもお主が初めてだぞ』
「はは、ごめんね、ベルギウス。ちょっと急ぎたかったからね」
『別に構わぬ。お主は我が主人なのだ。背に乗せて飛ぶくらい何ともないわ。それよりも、そやつをどうにかした方がいいぞ。背で吐かれてはかなわん』
僕たちを獣国へと背に乗せて運んでくれるベルギウスが呆れた風に言うのは
「うっぷっ、き、きもぢわるい……」
今にも吐きそうな程酔って気分を悪そうにしているマルスにだった。その隣でマルスの背をティアラがさすってあげているが、全く良くなりそうにはないね。ティアラはけろっとしているのに。
でも、ロウの背に乗るのとはまた違った良さがある。大地を踏みしめて疾走するあの感覚も好きだけど、この青空を飛ぶのも良い。
「まあ、少し横にでもなっているといいよ、マルス。少しは楽になるだろう。それで、ティアラ、足の感じはどう?」
「……ず、ずいまぜん……」
「もう、マルスったら。はい、まだ動かし慣れていないので、杖無しではうまく歩けないのですが、車椅子を使っていた時に比べたら、格段と過ごしやすくなりました。マルスに迷惑かける事も少なくなりましたし!」
僕の問いに笑顔で答えるティアラ。現在彼女は今まで使っていた車椅子の魔道具を使わずに、膝下まである黒色のブーツを履いている。
このブーツは只のブーツではなく、クロノとヘパイネルが作った魔道機兵を参考にして作った魔道具であり、ティアラの魔力を流す事によって、ティアラの思うままに足が動かせるようになっている。
ただ、彼女の足の障害は生まれつきだったため、歩き方というのを知らないため、現在はマルスに教えてもらいながら歩く練習をしているところだ。
他にも色々と隠し機能があるらしいのだが、それは、ティアラがもう少しブーツの使い方に慣れてから教えるとクロノが言っていた。他にどんな機能がある事やら。僕も知らない。
そんな彼女に前もって追加の装備を渡す。これについては事前に話していたので、彼女は少し戸惑いながらも受け取る。マルスもヒィヒィ言いながらも受け取った。
僕が彼らに渡したのは、これもクロノとヘパイネルの共同で作った獣耳セットだ。これから行く獣国は、獣人以外は入る事が出来ない。
そのため、変装する必要がある。そこで、必要だからと作らせたのだ。しかも、何気に中々の出来で、これもティアラのブーツのように魔力を流せば本物のようにピクピクと耳が動いたり尻尾が動いたりするのだ。
後は遠くの音を拾ってくれる補聴器のような役割もしてくれるし。
「な、何だか恥ずかしいですね」
獣耳を付けて恥ずかしがるティアラ。彼女には紺色の髪と同じ色である猫耳を渡している。僕は犬耳を付けて、マルスは
「ど、どうして俺はこれなのですか?」
両手で握るそれを見ながら震えるマルス。マルスの手の中にはマルスの髪の色と同じ色の兎耳が握られていた。どうしてクロノたちが兎耳を選んだのかわからないけど、面白いからそれを渡してあげたのだ。震えるほど喜んでくれて嬉しいよ。
しばらく頭に兎耳を付けるマルスを僕とティアラが笑いを堪えながら見ていると
『見えてきたぞ』
と、ベルギウスが言う。ベルギウスの飛ぶ先には山が円を作るように出来ており、その円の中心がぽっかりと空いていた。かなり上空から飛んでいるため見辛いが、話に聞いていたように街があるようだ。山に囲まれているとはいえかなりの広さだな。
『予定通り、途中で降ろすぞ?』
「ああ、頼むよ」
流石にこの巨体のベルギウスが獣国に向かえば大騒動になるからね。僕的には別に構わないけど、少し街を見てみたいというのもあったし、連れて来たマルスたちにお願いされたからね。ここはちゃんと守ろう。
僕たちは山の外側の中腹辺りに降ろしてもらい、ベルギウスとそこで別れる。ここからは影の中で寝ていたロウの出番だ。ベルギウスには何かあったら呼ぶ事を伝えて帰ってもらう。
それから、僕たちはロウの背に乗り、山を登りきってから下っていく。道中魔物が襲ってくる事もなく、歩いて行ける距離まで行く事が出来た。そこでロウにはまた影に戻って貰う。ロウもベルギウスと同じ理由で見つかったら大騒ぎになるからね。
歩ける距離と言っても、ロウが見つからないような距離だから2時間ほどは歩く事になる。少しティアラが辛そうだけど、まあ少し我慢してもらうしかない。いざとなればマルスに背負わせればいい。
内側に入れば魔物は少なくなり、予定より少し早くに辿り着く事が出来た。……僕の想像以上の田舎の獣国アゼルスに。




