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118.一先ずの終わり

「やあ、久し振りだね、神官さん。僕の事覚えているかい?」


 ハゲかけている髪を掴んで神官の顔を上げて僕と視線を合わせる。少し怯えた様子の神官は、髪を掴んでいる僕の顔を見て初めは戸惑っているけど、次第に僕が誰なのかわかったのか、驚きを露わにする。


「な、何故ここに貴様がいる!? 貴様はあの骸骨の化け物に連れて行かれて死んだはずでは……」


「おいおい、勝手に殺さないでよ。折角君に会いに来たっていうのに、寂しいなあ」


 僕は笑いながら神官の顔を地面へと叩きつける。そこまで力入れていなかったから、鼻の骨がグシャッと折れるだけで済んだ。その痛みに叫ぶ神官と、神官の悲鳴を聞いて怯える王族たち。


「ぐぅぉぉぉっ……わ、私にこのような事をして良いと思っているのか!? きょ、教会が、女神様が黙っておらぬぞ!」


 目からは痛みからか涙を、鼻からは血を流しながら僕に凄んでくる神官。その余りにも滑稽な姿に我慢する事が出来ずに笑い出してしまった。こいつ、僕を笑い殺す気かな? それが目的なら流石としか言いようがない。なんて策士だ。


「……ハルト様、笑い過ぎです」


 そんな僕をジトッと見てくるミレーヌ。わ、わかったからそんな目で見ないでよ、ミレーヌ。変な気分になるじゃないか。


 僕はそんなミレーヌの視線を避けながら呼吸を整える。笑い過ぎて出て来た涙も拭わないと。……って、こらっ、リーシャ。暇だからっていつの間に僕の影から出て来た小型犬サイズのロウと遊ぶなよ。緊迫した雰囲気が緩くなったじゃないか。ロウも嬉しそうにお腹見せないの。ったく、これが神獣なんてこの光景だけじゃ信じられないよ。


「ハルト様?」


 おっと、ミレーヌが笑いながら怒っている。それを察したリーシャがピンと直立、ロウが姿勢良くおすわりで待機。僕もやる事をやってしまおう。


「んんっ! ……それじゃあ、神官さん、あなたを捕らえて拷問すれば、教会の連中が来てくれるのかな?」


「な、何?」


「それならこっちとしては有り難いかな。そんな簡単な事で奴らを呼ぶ事が出来るなんて!」


 まさか喜ぶなんて思ってなかったのだろう。神官のみならず、他の捕らえている者たちも唖然と僕を見ていた。


 普通なら教会に逆らう人間なんていない。王族ですら、後ろ盾に大陸1の国である聖王国がある教会に逆らう者はいない。それなのには僕は教会が出張ってくる事を喜んでいるのだから、普通の人からすれば狂人にしか見えないだろう。


「言い忘れていたけど、僕たちは聖王国と戦争をするつもりなんだ。女神フィストリアとも既に何度か争っているしね。だから、何本もあるトカゲの尻尾で教会の連中が出て来てくれるのは有り難いんだよ。いやー、まさかあなたがそんな重要な位置にいるなんて。良い方向で予想外だったよ」


 僕が本当に嬉しそうに言うと、自分の言った事の間違いをようやく認識出来たのだろう。顔を青ざめて汗を流し、ガクガクと震えていた。


「自分がこれからどうなるかわからないって怖いよね? 僕も同じだったからわかるよ? 突然大人たちに捕まって汚い牢屋に入れられてさ。僕がいくら叫んでも、笑いながら殴られてさ。お前は悪魔だ、だからこれは聖なる裁きだ、なんて言いながらね。……お前にも同じ目を合わせてやろうか?」


「ひぃっ!?」


 おっと、思わず殺気が漏れてしまった。それに当てられた神官は体の至るところから体液を垂らし始めた。それに、殺気に混じって魔力が流れてそこら辺に転がっている兵士の死体がアンデッドとして蘇ってしまった。しかも、神官や教会の人間に対して、物凄い怒気を放ちながら。これも僕のせいだね。


「……なんだか色々起きちゃったけど、まあいいや。神官、お前には僕と同じ目にあって貰うよ。既に国王には話している。僕を踏み絵にした時のように国民1人1人にナイフで神官、君を刺して貰う。全員耐えられたら許してあげるよ」


「こ、国民全員だと!? お、お前がいた村とは人数が違うのだぞ! そ、そんなものを受けたら……」


「本当はこんな提案せずに殺してもいいのだけど、僕は慈悲深いからね。少しでも生き残れるように歯を食いしばる事だ。先輩からの伝言だよ。連れてって」


 僕の言葉に先程蘇ったアンデッドたちが神官や教会の人間を外に連れて行く。何やら喚いているけど無視無視。僕の時は聞いてくれなかった奴らの話なんて聞くつもりはない。十中八九死ぬと思うけど、万が一生き残ったらアンデッドにしてあげよう。


 神官たちが運ばれるのを見送った後に、僕は振り返る。視線の先にはこの国の王族たちが怯えながら運ばれる神官たちの背中を見ていた。


「さて、次は王族のあなた達だ。僕たちからしたら生かしておく理由が無いから殺してもいいのだけど、先程も言った通り慈悲深いからね。僕の提案を受け入れるなら助けてあげるよ」


「……提案だと?」


「うん、君たち王族にはこの王都の民、1人10人殺してきて。それが出来たら生かしてあげるよ。さっきの神官たちに比べたら楽だし、痛くないから簡単でしょ? いやー、なんて優しいんだろう僕。そうだ、殺した人たちの首を持って演説もしてね。『私たちは自分の命大切さに民を殺しました』ってね。誰も自分の命大切だから許してくれるよ」


「ふ、ふざけ……にゃびぁ……」


 僕がとてもいい提案したところに、文句を言おうとする男。確か王子だったかな? しかし、彼が言い切る前にミレーヌに頭を撃たれて死んでしまった。


「……まあ、これほど簡単に殺せるほど君たちには価値がない。僕の気持ちが変わらないうちに動いた方がいいと思うけどね」


 流石に目の前で王族である自分の家族が簡単に殺されたら、嫌ながらも動くか。この中でどれだけ国民に殺されずに生き残れるかな?


 僕はそのまま出て行く王族を見ずに、残された玉座へと座る。僕の前にはリーシャとミレーヌだけが残った。


「これで1つの目的は終わりか、マスター?」


「そうだね。一先ずはってところかな。ミレーヌ、これからの事を話すためみんなを呼んできてくれないかな?」


「わかりました」


 さてと、一先ずは休むとしようかな。

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