102.魔方陣
「神喰ノ魔剣!」
僕は魔力を注いで作った神喰ノ魔剣で、眼下にいる化け物になった皇子へと振り下ろす。ロウの稲妻をくらい少し怯んだところに振り下ろしたけど、手に帰ってきた感覚は弾かれた感覚だった。
「硬いな、コイツ……ちっ!」
『鬱陶シイ蝿ドモガ!』
自分の頭の周りにいる僕たちに気が付いた皇子が、闇雲に手を振り回す。これが普通の手なら何も無いのだが、僕たち人間なんて簡単に覆い尽くせるほどの大きさを持つ手だ。これに当たればひとたまりもない。
これはミレーヌたちに帝国の掌握を頼んで連れて来なくて良かったな。七星天女がいるとしても危険だ。
僕は宙に暗黒魔術に足場を作り移動する。そして、黒槍を何本も作り放つが……全く傷が付かない。本当に硬いな。
「あはははっ! こんな奴とやれるなんて、さすが旦那!」
相手の攻撃を避ける僕の横を通り抜ける黒竜、レルシェンドが、笑いながら皇子へと突っ込んだ。皇子の振り回す拳を避けて、レルシェンドは尾を叩き込む。
少し仰け反る皇子だが、直ぐにレルシェンドを睨みつけ攻撃を仕掛ける。レルシェンドに皇子の気が向いているうちに
「生存者を下がらせろ! 怪我人……いや、全軍下がるのだ!」
ロウの背に乗っているリーシャが戸惑っている軍へと指示を出してくれていた。ネロ、エルフィオンは当然として、エリーゼとフィアにティアラとマルスは無事だったようだ。
軍の中にはリーシャと同じように指示を出すセシラとセルの姿もあった。あいつらも無事だったのか。
『邪魔ヲスルナァァァ!!!』
少し周りを確認していると、叫び出す皇子。すると、背中に小さい斑点模様が出来て、そこから小さな化け物が現れた。小さなと言っても子供ほどの大きさはある。それが何十体と現れたのだ。
翼を生やしたそれは旅立って僕たちへと向かって来る。鬱陶しいなこいつら。僕は空中に短剣をいくつも作り、新たに生まれた化け物たちへと放つ。皇子ほど硬くはないようで、次々と貫いていく。
しかし、皇子の背中からは次々と生まれていく。本当に面倒だな、こいつ。レルシェンドも次々と生まれてくる化け物のせいで近づかずに離れてしまった。僕たちも近づけない。
「ちっ、ちまちまと鬱陶しい小蝿が! まとめて吹き飛ばしてやる!」
そして、それが苛立ったのか、レルシェンドの魔力が吹き荒れ額の角へと集まっていく。帝国から逃げる時に放ったあれか!
「リーシャ、全員下がらせろ!」
僕の言葉に皇子から離れるみんな。そして、同時に放たれるレルシェンドの黒色のブレス。僕はそのブレスの側を足場を作りながら走る。
僕の姿を見たリーシャが驚いて怒鳴っているけど、僕は無視して進む。皇子もこのブレスは危険だと思ったのか生んだ化け物を盾にするが、次々と消し飛ばされていく。
その消し飛んだ後の穴を掻い潜って僕は皇子へと近づいた。目の前にはまだ僕には気が付いていない皇子の顔があった。僕はその額目掛けて魔力を込めた魔剣を振り下ろす。
ガンッ、と一度弾かれたが再び振り下ろす。何度か振り下ろすと、ようやく浅くはあるが傷が出来たが、当然僕も気が付かれて化け物たちに囲まれた。鬱陶しいけど、今ここで離れるわけにはいかない。レルシェンドのブレスも消えているし。
『消エロォォォ!』
皇子は蝿を取り払うように自分が生んだ化け物ごと僕を払おうとする。僕は皇子の背に乗って魔剣を振りながら走っていく。
化け物たちが追って来るが、短剣を放ち近づかせない。こういうのは苦手なんだがミレーヌに習っていて良かったよ。
そんな僕を助けるようにか、様々な魔法が降り注ぎ化け物を次々と撃ち落としていく。これは、エルフィオンか。彼の魔法が引き寄せられるかのように化け物たちへと当たっていく。これは少しは楽になった。
「これで、どうだ! はぁ!」
エルフィオンたちが化け物を倒してくれたおかげではやく完成した傷痕、魔方陣へと魔力を流し込む。僕の魔力が傷痕を流れて魔術が発動する。
「降り注げ、侵食ノ太陽!」
いつも使っているものよりも巨大で凶悪な魔術。巨大化した皇子の半身を侵食ノ太陽は飲み込み、そして地面へと叩きつける。何とか動こうとするが、侵食ノ太陽から伸びる魔力が皇子を縛り動けなくした。
ミレーヌに教えてもらった魔方陣。魔方陣を描いて魔法を発動するとかなり強力らしいのだが、能力に比例して大きくなるのが難点なのだとか。
そのため、儀式などでは使われたりするらしいのだが、こういう戦いでは滅多に使われる事が無いらしい。あっても、後ろで待機してどでかいの撃つ時とか。
僕はその魔方陣を皇子の背に無理矢理描いて発動したってわけだ。無理矢理したため、軽く暴走はしているみたいだけど、この程度なら押さえ込めれる。
急速に皇子の魔力を吸い込んでいく侵食ノ太陽。それと同時に皇子の体を削っていく。このまま放っておいても良いのだけど、まだ時間がかかりそうだから、更に魔力を流す。
威力の上がった侵食ノ太陽は、一気に皇子の魔力を吸い込んでいった。それと同時に皇子の体も。結構魔力持っていかれたな。これでも魔力はある方なんだけど、半分近く持っていかれたぞ。
でも、そのおかげで残ったのは皇子を吸い込んだ侵食ノ太陽だけ。どうしようかなこれ……よし、聖王国へ返そう。あいつらのせいでこうなったわけだし。
あのクソ女神の気配は嫌という程わかる。後は君たちでどうにかしてくれ。その間に僕は帝国を纏めるかな。




