99.暗黒魔術師VS天使
「行くぞ!」
声と共に光り輝く剣を構えて六翼をはためかせ迫って来るメルカル。振りかざした剣を袈裟切りに振り下ろして来る。
奴の剣に付与された力『絶剣』のせいで、こちらは暗黒魔術で作ったもので防ぐ事が出来ない。そのため、必然的に避けに徹する事になる。
避けながら周りに展開した短剣を放つけど、全て力を付与された剣に切り落とされる。思っていたよりも反応が良い。
その上、周りの天使たちが放ってくる魔法だ。今は短剣が盾に変わり防いでいるが、邪魔で仕方ない。僕に大した脅威で無いにしても、周りを小蝿のようにブンブンと集られるのは目障りだ。
「よそ見する余裕があるのかっ!?」
「おっと」
少し周りに飛び回る天使を気にしていると、メルカルの剣が掠ってしまった。服を軽く切った程度だけど、切られた感覚すらない。
普通切られたりすると衝撃などがあったりするものだけど、触れた感覚すらなかった。これもクソ女神の力のせいか。より気を付けないと、気がついたら切られていましたって事になってしまう。
「どうした!? 逃げてばかりじゃないか!」
どうしようかと、考えながら避けていると、剣を振り回すメルカルがそんな事を言ってくる。まあ、逃げてばっかなのは否定しないけど、言われるのは腹が立つね。
まあ、避けている間にある程度のことは分かった。今度はこっちから攻めさせてもらおうか。
僕は再度短剣を放つ。メルカルは放った短剣を片っ端から切り落として行く。その放つ短剣を少しずつ増やして行く。
簡単な話だけど、あの『絶剣』の力が宿っているのはあの剣のみ。確かに『絶剣』の力は途轍もなく強い。僕も攻め切れずに防戦一方になってしまう。
だけど、それだけだ。いくら触れたものを絶対に切る事が出来る能力だとしても、僕に近づく事が出来なければ意味が無い。
これが、剣聖など剣術に対してかなり補正のある職業ならまた話は別だけど、メルカルは見る限りはそうでもなさそうだ。
ほんの少し放つ短剣の数を増やしただけでもうこちらに攻めてくる事が出来ずに、短剣を防ぐ事に必死だ。リーシャなら短剣を切り落としながらトップスピードで迫って来るだろう。そして、更に増やすと
「くっ……がぁっ!?」
メルカルの体に刺さる短剣。あのクソ女神も与える相手を間違えたな。もっと、剣が得意な者に与えれば違ったのに。
「これで終わりだよ。死ね」
更に数を増やした短剣を一斉に放つ。メルカルは何とか防ごうと剣を振るが奴の腕では捌き切れずに次々と短剣が刺さって行く。
1発1発刺さる事に悲鳴が聞こえてくるけど、100近く刺さった頃にはそれも聞こえなくなり地面へと落ちた。
「お前たちもだ」
それと同時に他の天使たちにも短剣を放つ。神の力を持ち、この天使たちを率いるメルカルが耐え切れなかったのに、普通の天使たちに耐え切れるわけもなく、次々と死んで地へと落ちて行く。
……蓋を開けてみれば呆気なかったな。 初め触れたものを何でも切る事が出来ると聞いた時はかなり警戒したけど、相手があの程度だと全く意味が無いなんて。
まあ、ここで奴と戦えたのは良かった。こんなところであんなに弱い天使に使ってくれたおかげで今後対策が出来る。聖王国に攻めた際に使われるよりかは断然マシだ。
聖王国と戦いになった際に必ずぶつかるであろう十二聖天も何かしら与えられているだろう。この間の偽物とは違って。
ここは終わったしミレーヌたちの元へと向かおうとしたその時、後ろから何かが飛んでくる気配がした。僕は咄嗟に影を伸ばして盾にしたが、いとも容易く影は切られて僕へと向かってくる。
僕は舌打ちをしながら何とか体を逸らすけど、飛来してくるものは僕の右肩を切り裂く。
僕の視線の先には、先ほど殺したはずのメルカルが剣を持って立ち上がっていた。体中には短剣が刺さった後もあり、痛々し姿になっている。
先ほどと違うのは、剣から放たれていた光がメルカルの体を覆っているところだ。そして、傷だらけの体を少しずつ治っていく。
メルカルの死体は、体の傷が全て治ったのを確認すると、僕を見て来てニヤリと笑う。その表情を見た瞬間、背筋に悪寒が走る。本能のまま横に飛んだ瞬間、僕がいた場所に斬撃が走った。
「へぇ〜、やるじゃない、あなた」
僕がいた場所は斬撃によって深く抉られていた。今の一撃でこの威力。それに女と思わせるような話し方。
「お前、メルカルじゃないな?」
「ええ、私の一撃を避けたあなたには教えてあげましょう。私は女神フィストリア様を守護する四大聖天使が1人、ラファエラ。あなたが殺したメルカルの上司になるわ。
まさか、予定より早くメルカルが死ぬとは思っていなかったから、フィストリア様より行くように言われたのよ。少し相手してもらおうかしら」
メルカル……いや、ラファエラがそう言った瞬間、メルカルとは比べ物にならない殺気が放たれた。それにさっきの斬撃を見る限り、剣術も桁違いの実力を持っている。
これはさっき以上に気を引き締めないと……僕が殺されるかもね。まあ、僕が殺すけど。




