第9話:王女に出会う
06話で騎士に追い払われた設定を追加しています。毎日更新した瞬間に読んでくださっている人がいたら、その点をご了承ください。
ヴァイオラについていき、儂とルディは再び城の城門前まできていた。騎士が警備の任務についていた。先ほど儂らを追い払った騎士と同じだろうか。
「ヴァイオラ様、今日はようこそおいでくださいました」騎士が言った。声が先ほどの若い騎士だった。
「ヴァイオラさま、その方は?」
「ああ、アルバートの弟子だよ。身元は私が保証しよう。入れてもらえるかい」
ヴァイオラは儂たちを肩越しに振り返りながら言った。
「はっ、かしこまりました」
騎士はかしこまって敬礼をする。宮廷魔術師の言う事ならば異論はないのだろう。
「先程は追い返してしまって申し訳ありませんでした」
騎士は律儀に謝ってきた。儂たちのことを覚えていたようだ。
「いえいえ、いいですよ。私が自分自身で身元を証明するものを持っていなかったのがダメなんですから。騎士さんもお仕事なんでしょう。仕方のないことです。」
儂は許しておく。彼は城門で警備の任務に付いているとはいえ、立派な鎧に身を包んだ騎士である。そこそこの貴族の息子なのだろう。寛大な対応をしておいて恩を売っておくのも損はない。
「そう言っていただけるとありがたいです」
再び騎士は頭を下げる。
「じゃあ、いくよ」
ヴァイオラが歩き出した。
――
城門をくぐり、いくつかの通路を通ると中庭にでた。しっかりと手入れをされているようで、芝生が青々としていた。数本の木が生えていた。
中庭では、一人の少女が駆けまわって遊んでいるのが見えた。少女の年齢は8歳程度であろうか。肩まである金髪はくるくるとカールしている。フリルが沢山ついたピンクのドレスを着ていた。少女から少し離れたところで、ロングスカートのメイド服を着たメイドが少女の様子を見守っていた。
少女は儂たちが歩いているのを見つけると、走り寄ってきた。そしてヴァイオラにそのまま抱きつく。なかなかの勢いがあったようだが、ヴァイオラはしっかりと受け止める。少女を受け止める瞬間、ヴァイオラは魔力で身体能力を強化したのを儂は気づいた。
「ばあば!」少女は嬉しそうな声を上げた。
ヴァイオラは少女に向かって頭を下げる。
「王女様、そんなにお走りになったら危のうございます。お気をつけ下さい」
先ほどの騎士に対するそっけない態度と異なり、ヴァイオラの声に優しさが満ち溢れていた。慈しむように目をほめている。
「ばあばの近くだったら大丈夫。魔法で直してくれるでしょ。ばあばは何でもできる魔法使いなんだから」
王女と呼ばれた少女はあどけない笑顔を浮かべる。
「確かに私が近くに控えていれば魔法で治してさし上げることも可能です。ですが魔法で何でもできるとは思わないでください。魔法でも出来ないことはございます。」
「ふーん、そんなものなのかなぁ」
少女は小首をかしげる。
「そうでございます。魔法が何でもできると思わないでください」
ヴァイオラは念を押すように繰り返す。
魔法についての知識がない人ほど、魔法がどんな困難でも解決できる万能の力であると勘違いする傾向があった。このお姫様もそうなのだろう。魔法の力は術者の魔力や術式を構築する知識などに影響される。王女ということは今後国の政治にも関わるかもしれない。今のうちに勘違いは正しておくべきだろう。
「そうなんだ」
少女はちらりと儂をみた。
「ねえ、ばあばのつれている男の子はだれ」
「魔法使いアルバートの弟子です、王女様」
ヴァイオラが儂を指し示して少女に紹介する。
「アルバートの弟子ジョンと申します」
儂は一歩前に出て頭を下げた。
「魔法使いの弟子なの。いいなぁ。私も魔法使いたい。ねえばあば、私を弟子にしてよ」
少女はヴァイオラを見上げて頼み込む。少し上目遣いにして頼み込む姿はあざとい。無意識なのか意識的なのか、自分の魅力を有効活用するすべを心得ているようだった。
「そんなことしてしまっては王様に怒られてしまいます」
「いいじゃん。けちー。私も魔法を使いたいもん。」
ぷくーっと少女はほほを膨らませて文句を言う。
「けちだなんて、そんな言葉を使ってはいけません。王女様がなんと言われようと王様の許可がなければ魔法をお教えすることなんて出来ませんからね。魔法は危険なものなんですから。勝手に私が王女様にお教えなんてしたら私が怒られてしまいます」
「べーっだ。じゃあ、お父様に頼んでくるもん」
タタタタタっと少女は走り去ってしまった。
「姫様、お待ちください」と少女を追いかけてメイドも走っていった。
さらには近くの茂みからガサガサと音がして鎧を着た騎士が転がり出てきた。先ほど城門で立っていた騎士と比べてこちらの騎士はがっしりとした体格をしており、強そうだった。騎士はヴァイオラと儂に一礼するとメイドを追いかけて走りだした。護衛のものだろうか。
ヴァイオラは、はあっとため息をついた。
ようやっと若い子が登場。いや、まあ主人公も筆者の中ではショタなんですけど・・・・。