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第8話:魔女との交渉

「あんたからは確かにアルバートの魔力を感じる。でも、あいつにしたら相当魔力が弱いじゃないか。まるで赤ん坊のようだ」


 老婆は問い詰める。さすが魔女ヴァイオラ。儂と昔は競い合っただけのことはある。魔力の感知能力には目を見張るものがある。


 魔力というものはひとりひとり固有の波長というものがある。魔術の熟練者になると、一人ひとりの魔力の波長を感じるだけで、その人の姿形をみることなく人物を言い当てることができた。宮廷魔術師の職につき、昔は儂と手柄を競い合った仲のヴァイオラが儂の波長を見抜けないはずがなかった。


「もう一度聞くよ。あんたは何者だい」


 ヴァイオラの右手に魔力が集まっているのが感じられた。返答次第によっては攻撃もしてきそうだ。


 儂はどうしようかと逡巡した。このまま洗いざらい喋ろうか。それともこのままジョンとして嘘を突き通すか。このまま洗いざらい話した場合、儂の魔力がなくなっていることを教えてしまうことになる。何かと昔は競い合った仲だ。儂に対してヴァイオラが恨みを持っているということも考えられた。その場合、儂が大した魔法を使えないのを良いことに積年の恨みを晴らしてくる危険があった。


 しかしながら、このままジョンとして嘘を突き通した場合、ヴァイオラがもしそれが嘘だと見ぬいたならば躊躇わずに攻撃してきそうだ。怪しい奴など近くに置いているだけでも危険だからだ。もしヴァイオラが攻撃してきた場合儂には防ぐ手立てがない。ほとんど魔力を持たない儂にとっては宮廷魔術師の攻撃魔法などひとたまりもない。


 儂が返答に時間をかけていると、ヴァイオラの目が細まった。ヴァイオラの右手に魔力が更に集まる。


「わかったわかった。話す。話すからその物騒な魔力を開放せい」


 儂は両手を上げて降参する。今にも攻撃してきそうな気配に、儂はアルバートだということを隠し立てすることを諦めた。話しているうちに怪しまれて攻撃されるのがオチである。


「ふん、変な行動をしたらわかってるね」


 ヴァイオラの右手に込められた魔力が霧散していく。


「変な行動ができたらいいんだけどの。今じゃお前さんの言うように魔力がほとんどなくなっているからな」


「魔力が無くなった・・・・・?」ヴァイオラが戸惑いの声を上げた。


 人は徐々に成長するにしたがって扱える魔力は多くなってくる。たとえ大人になったとしても、多少増加速度はにぶるが、魔力は増え続けるものだった。それが魔力が無くなったと儂は告白したのだから、ヴァイオラが戸惑うのも当然だ。


「そうだ。儂はアルバート。この世界最強の魔法使いにして、今じゃ何の魔法も使えない小さな子どもだ」儂が答える。


「アルバートだと。私の記憶じゃアルバートはヨボヨボの爺さんだったと思うのだけど」


 はて、とばかりに顎に手を当てるヴァイオラ。


「ああ、そうだ。儂はよぼよぼの爺さんだった。だが魔法の薬によって若返ることが出来たのさ。副作用として魔力をほとんどなくしてしまったがね」


 自嘲気味に告白する。


「なるほど、だから魔力の波動が全く同じガキが居るということさね」


 納得したとばかりにヴァイオラは頷いた。同一人物なのだから魔力の波動が一緒なのは当然だ。


「そこで頼みがある。儂はどうにかして魔力を回復したい。王宮の図書館にならば儂の魔力を取り戻す方法が書かれた魔道書があるかもしれん」


「だから私に紹介状を書いて欲しいということかい。自分で書けないのかい」


「いや、身分を明らかにするものはすべて自宅においてきてしまっての。紹介状を書こうと思っても書けないのだ。」


 自分の身分を明かすものは持ってきていなかった。ヴァイオラには教えてしまったが、魔力のない今、儂がアルバートであると示すものは極力持ち歩きたくなかった。


「あんたも馬鹿だね。良いだろう。私が王宮までつれてってあげよう」、ふんっとヴァイオラは鼻を鳴らしながら言った。


「本当か。それは助かるな」


「その代わりあんたの魔力が回復したら報酬はきっちりといただくからね」


 儂に指を突きつけながらヴァイオラはそう宣言した。ちゃっかりしている老婆である。いつでもいつでも報酬報酬と言ってくる。だからこそ今でも王宮魔術師として働いているのであろうが。知識の探求に明け暮れたいがために森の自宅に引きこもった儂には、ヴァイオラががめつい老婆にしか見えなかった。


「よかろう。儂が魔力を取り戻したら若返りの薬のレシピをやろう」


 儂はゆっくりと頷く。がめつい老婆にはそれに見合った報酬を与えてやろう。魔力を失う若返りの薬のレシピをやろう。魔力が失うのがどれだけ大変か思い知るが良い。儂はそう思いにやりと笑った。


「ついといで」


 ヴァイオラは部屋を出てずんずんと玄関に向かって歩き出した。ヴァイオラもなかなかに年をとった老婆だ。若返りの薬を貰えると聞くとやる気もでるのだろう。歩く速度が早い。


「ご主人様、ちゃんとあの薬を飲んだ時の魔力の回復手段も教えてあげるんですよね」


 やる気に満ち溢れたヴァイオラの後ろ姿を見ながら、あとに残された黒猫のルディが儂に問いかけた。


「ん、ああ」


「あの人も報酬報酬とちゃっかりしているところはありますけど、ご主人様も魔力が失う副作用の薬を渡すって相当性格悪いですよ」


 ルディがじとーっと睨んでくる。


「困っていたら助けてやるさ」


 儂は肩をすくめると、ヴァイオラのあとを追って歩き出した。


魔力無くなったはずなのに、魔力で個人特定ってどないなってんでしょうね。かすかに残っていたということにしてください・・・・・

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