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第3話:村に向かう

あらすじ

若返りの薬によって、若返ることに成功した大魔法使いアルバート。しかし副作用として、魔力を喪失してしまった。魔力を失ったことに悲嘆していたが、魔石を利用することで、魔法を扱うことができた。


--------------


「ご主人様、起きてください。朝ですよ。」


ルディの起こす声が聞こえる。


「もう少し寝かせておくれ」


儂は布団に潜り込む。起きるか起きないかのまどろみほど心地良ものはない。


「何を言っているんですか。今日は村に行くんでしょう。早く起きて支度をしてください」


ルディがベッドの上に飛び乗ってきたのか、若干布団に重みがかかる。


「村に行くじゃと、なぜそんな必要があるんじゃ。食べ物はこの前フレッドが持ってきてくれたばかりじゃろう」


「昨日の出来事をお忘れですか。体は若返ったのに、頭は物忘れの激しい老人のままですか」


「体は若返った・・・・・なんのことやら・・・・・・・おお、そうじゃった」


儂が若返ったことを思い出して飛び起きる。


「ちょっと急に飛び起きないでくださいよ。危ないじゃないですか」


布団の上に乗っていたであろうルディが抗議する。


「知らぬわ。お主が布団の上に乗ってきたのが悪いのじゃろう」


「だってご主人様がなかなか起きないですから」


あーもう、うるさい猫め。


ルディのことは放っておいて、身なりを整えることにする。


「水よ、我を清めよ」


儂は呪文を唱えながら腕をひと振りする。


魔法発動すれば、儂の体は魔法の水に包まれ、清められるはずだった。魔力のない今、なんの変化もなく、ただただ儂が突っ立っているだけだった。


「やっぱり、ご自身だけでは魔法が使えませんか。」


困ったなぁ。


「ご主人様、身なりを整えるための水はあちらに用意しております。」


ルディが前足で指す方には、水がいっぱいに汲まれた桶が置いてあった。


「めんどくさいのぉ。」


仕方なく手を使ってバシャバシャと顔を洗い、寝癖を整える。普段なら魔法で一瞬で済んでしまうことなのに。いつもより手間がかかってしまうことが煩わしい。


「今日は村に向かうのですよね。」


「そうじゃが」


「村人たちに、ご主人様が子供になったことは伝えますか?」


「うーむ、儂が若返ったことは伝えてもいいかもしれんが、魔力がなくなったことは秘密にしておきたいのう。儂を恨んでいるやつがいたら、魔力のない今が好機だと命を狙っているやつが出てくるかもしれん。

若返ったことも秘密にしておいた方がいいのかもしれん。魔法を使ってくれと頼まれて、魔法が使えないことがバレるかもしれないからの。全くの別人のふりをしたほうが儂的には都合がいい。」


ルディはしばし黙り込んでから、口を開いた。


「わかりました。それでは、せっかくの幼いお姿を利用して、若返ったご主人様は、大魔法使いアルバートの弟子だと名乗りましょう。」


「弟子じゃと」


「はい。魔法が使えなくても、弟子なら仕方がないところもありますし、ご主人の世間知らず加減をごまかすのにもちょうどいいでしょう。」


「儂自身が、儂の弟子を名乗るというのか。いやはや、それも良いかもしれないの。」


知識の偏りをごまかすためにも、それは良いかもしれない。一般的な常識が抜けているという自覚はあるしの。なにか村人たちと常識の齟齬があったとしても、研究に没頭していたせいだとか、森で暮らしていたせいだとかいえば誤魔化せそうだ。


しかし、魔法を使えない魔法使いの弟子か。とんでもない出来損ないじゃの。


「それでは今後、儂は大魔法使いアルバートの弟子ジョンとでも名乗ろうかの。」


「かしこまりました。ジョン様。」


ルディが頭を下げる。


「それでは村に行こうかの。あ、そうそう、荷物はお主が持ってくれよ。儂はこんな子供の姿じゃ。重たい荷物なんて持つことができんわい。」


・・・・


アルバートの城と近くの村までの道は、結界によって魔物が入ってこれないようになっていた。なので安全に行き来することが可能である。もっとも村人たちは大魔法使いアルバートのことを恐れているので、利用するものは少なかったが。


儂は、道をトコトコと歩いて、村に向かった。


儂の城の近くにある村は畑や森の恵みを得る小さな村だ。森から薪や建材を切り出すため、そこそこ近くに家々が建てられてた。森に面している方面とは反対には畑が広がっており、野菜や穀物がすくすくと育っていた。


居城の近くに村があるというのは儂にとっても都合が良かったため、村にはなにかと援助の手を差し伸べていた。

たとえば、儂は魔物避けの結界を村に施していた。また儂が調合した回復薬を村長にあずけておき、大変な怪我がしたときに使うように言い含めていた。

なにかと村に支援をしていたおかげか、村人たちからは食料を融通してもらっていた。

村人たちは魔物に襲われる危険もなく安全に生活ができる。そして、儂自身は無償で食料を得るというウィンウィンの関係を築いていた。


儂が村についたときは、村人たちは畑仕事に性を出していた。ちょうど野菜の収穫の時期で、大きく育った新鮮な野菜を畑から収穫しているところだった。


精を出しとるな。良いことじゃ。


儂は村人たちの働く姿を見て感心する。


「やあやあ、諸君、今日も精がでとるの。」


儂はいつものように村人たちに声をかける。


村人たちはチラリと儂の姿を見ただけで作業を続けた。普段なら手を休めて挨拶を返すというのに。


「ご主人様、今は子供のお姿になっていることをお忘れなく。子供が尊大な態度をとったならば、村人たちも怒りましょう。いつもより丁寧に村人たちに接してください。」


ルディが小声で指摘する。


「おっと、そうじゃった。儂は魔法使い見習いのジョンだったの。」


改めて設定を思い出す。


魔法使いの弟子が村人に接する態度を考えながら、儂は口を開いた。


「畑仕事、ご苦労様です。我が師アルバートも村人の皆さんには感謝しています。」


ワシ自身の名前を出すことでアルバートの関係者だということをアピールしつつ、再び村人に声をかける。


「アルバート様とお知り合いの方でしたか。これはこれは有難うございます。」


村人の一人が作業の手を休めてこちらに近づいてきた。周りで畑仕事をしていた他の人たちも様子を伺っている。


「もし宜しければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


儂が子供のなりをしているのに村人は丁寧な態度で接してきた。


(さすが儂じゃ。儂の知り合いだと名乗るだけで、村人たちの態度がころりと代わるんじゃから。)


儂が自分自身の威光に鼻高々だった。


「儂、いや、私の名前はジョンと申します。師匠のアルバートのもと魔法の修行をしています」


相手が下手に出ているとしても、丁寧な態度は崩さなかった。ワシ自身は小さな子どもで非力であり、魔法も全く使えないのである。村人の反感はなるべく買わないほうが良い。乱暴を振るわれたとしたら対処をすることが出来ない。


儂の説明を聞いた村人は目を見開かせて驚いた。


「アルバート様のお弟子様でしたか。はじめまして。アルバート様がお弟子様をとっていらっしゃるとお聞きしたことがなかったので驚きました。」


「最近アルバートさまの弟子になったばかりなんです。」


「なるほど、お若いのに魔法の修行も大変でしょうに。それで今日はどのようなご用件でしょうか。いつもアルバートさまにはお世話になっていますので、お手伝いできることがあればおっしゃってください」


村人が親切に申し出てくれた。


儂は馬車に乗って王都に向かいたい旨を村人に伝えた。


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