第13話:薬草集め
デレクはこちらですと言って、地下に降りる階段を降りていった。
地下通路には蝋燭が灯されていた。デレクは地下通路を歩いていき、ある扉の前で立ち止まった。
「ここがヴァイオラさまの研究室です。私はここで待っています」とデレクは道を儂に譲った。猫ちゃんもここで待っていようねっとデレクは抱いたルディに言う。
儂はデレクにありがとうと感謝を伝える。ルディは儂に向かって前足を伸ばしていたような気がしたが無視をする。儂は扉をそっと開けて入った。
研究室にはホルマリン漬けにされた動物が壁際に並んでいた。またもう一方の壁には青色や緑色の液体や薬草が入った大きな壺が並んでいた。
ヴァイオラは一つの壺のそばにたち、グルグルと壺の中身をかき混ぜていた。壺の中身は薄い黄緑色だった。目をつむって一心不乱にかき混ぜている。口は小さく動き、何やら呪文を唱えている。ヴァイオラは腰につけた巾着袋から緑色の粉末を取り出すとパラパラと壺の中にふりかけた。液体は薄い黄緑から鮮やかな緑色に変わった。
儂はヴァイオラが一段落するまで作業の様子を見ていた。ヴァイオラは手際よく作業をしていく。更に3回ほど追加で粉末を
ヴァイオラはフーッっとため息をつくと、儂に振り返った。
「来たね。あんたにちょっと頼みごとをしたくてね」とヴァイオラが口を開く。
最近ヴァイオラの家に世話になっているので頼みを聞くのはやぶさかではなかった。
「治療薬を作るための薬草が減っていてね。近くの森から採集してきて欲しい」とヴァイオラ。
「もう知っているかもしれないけど、最近あんたの城周辺の魔物が活発に活動しているという報告が入ってね。現在、魔物討伐の軍を編成中さ」
先ほどルディやデレクが王城が騒がしいと言っていたことか。討伐軍をすでに編成しようとしているとは動きが早い。
「私達魔法使いもその準備に大忙しさ。兵士たちに持たせるための回復薬を作らないといけないからね」
そのための材料として薬草を採集してきて欲しいとヴァイオラが言う。儂の城周辺の魔物を退治するための軍隊に持たせる回復というのであれば、ぜひとも協力したかった。それに協力しなければ、ヴァイオラへの貸しがとんでもないことになりそうだった。
「了解した」
「護衛にはデレクたちをつけよう。あいつは小さい子供が好きだから、しょっちゅうアンタの様子を見に行っているようだしね」
子供の姿で良かったじゃないかとヴァイオラが冷やかすが、儂は肩をすくめる。子供になるのは望んだが、魔力を失うのは望んでいない。良かったといわれると素直に首肯することなどできない。
「デレク!」
ヴァイオラが外に立っているデレクに聞こえるように大声を上げる。
「何でしょうかヴァイオラ様」
デレクは慌てて部屋に入ってきた。ルディはデレクの腕の中でぐたっとしていた。廊下で待っている間、ずっとデレクに撫で回されていたのだろう。
「ジョンと一緒に城の外の森で薬草を取ってきて欲しい。魔物が出てくるかもしれないから用心しな」
「了解です。ジョンさん、私がしっかりとお守りするので安心してください」
にかっとデレクは儂に笑いかけてきた。
――
ルディ、デレクの他に護衛として3人の騎士を伴って王都の外にある森にやって来た。3人の騎士はデレクと同じ頃に騎士になった仲間らしく、デレクとも仲が良かった。森に来るまでの道のりでは互いにふざけあって冗談を言っていた。
森に入るにあたって儂は魔法の杖を持ってきていた。子供の儂の身長より長い魔法の杖だ。杖の先端には赤色に輝く宝石が嵌めこまれていた。魔力を効率的に扱うことができた。
デレクは動きやすいように軽装の鎧に、片手剣、盾を持っていた。そして採集した薬草を入れるための大きな袋を持っていた。護衛の騎士たちは皆似たような装備だった。
森の入り口は比較的木々の間隔に余裕があり、木漏れ日が地面まで届いていた。街の人たちが定期的に木を切り倒しているからだ。明るい森は都市の人たちが利用するのに都合がよかった。魔物との不意の遭遇も避けることができた。都市の人々は比較的安全な森の入り口で採集活動を行っていた。
しかし、儂らが採集しようとしている薬草は森の奥深くの薄暗いジメジメとした環境で育つものだった。人手が入っていないところまで探索する必要があった。そこではうっそうと生い茂る木々に視界を遮られて魔物と遭遇する確率が高くなる。
儂はポケットに魔石が入っていることを確認する。いつでもすぐに取り出せるように位置を微調整する。使える魔力に限りがあるのでできれば温存はしておきたいが、万が一ということもある。
「それじゃあ行きましょうか」儂が問いかけると騎士たちが頷く。
騎士たちが儂の周りを歩き、周囲を警戒する。
手はずとしては儂が薬草の採集を行い、騎士たちが周囲の警戒を行うことになっていた。なので儂は地面に生えている薬草を探すことに専念できた。ルディも一緒に探してくれていた。
森の奥に進んでいくにつれて、木々の間隔は奥にいくほど狭まっていた。地面に届く陽の光も減っていき、少しずつ暗くなっていっていた。木々も太く大きくなっていった。木々の表面は苔で覆われ、経過する年月が感じられた。
目的の薬草は程なく見つかった。幸運なことに薬草は群生しており、収穫は順調に進んだ。
儂が収穫に夢中になっていると、突然ルディがシャーッ! と呻り声をあげた。何事かとルディのほうを見てみると、ルディは森の奥へ向いて、背中を丸めて毛を逆立てて威嚇のポーズをとっていた。
護衛の騎士たちがルディの異常に気づいて、剣を構える。
儂は採集する手を止めて、デレクの近くに駆け寄った。デレクは盾を使って儂の体を隠す。
しばらく待っていると茂みから身長が二メートルほどもあるオークが4体現れた。筋肉隆々の体格で肌の色は緑がかった灰色。顔はイノシシと人間が掛け合わさったようであり、ブタに似た鼻があり、大きな牙がした顎から生えていた。腕は木の幹のように太く、大きな混紡を持っていた。
騎士たちがごくり……とつばを飲み込む音が聞こえた。
次回、手に汗握る戦闘シーンを描写することができるのか(;´Д`)