第11話:王女さまのお願い
儂は数日間、王宮の図書館で魔力の回復について調べた。しかし、手がかりという手がかりもなく、ただただ無為に時間だけが過ぎていった。魔力の回復について書いてある魔術書もあるのだが、それは魔術行使によって失われた魔力をいかに早急に回復するかという記述であり、若返りによって消えた魔力を取り戻す方法でなかった。
ここ最近は、宮廷魔術師ヴァイオラの家に寝泊まりをして、朝になると図書館に閉じこもり魔術書に目を通す、そして夜になるとヴァイオラの家に帰るという生活をしていた。
図書館で調べものをしていると時々デレクが「なにか手伝えることはないですか」と嬉しそうに訪ねてくるのはいつもの事だった。その時は書棚から引っ張りだしてそのままにしてしまっている魔術書の片付けや、手の届かない高い所に置いてある魔術書を取ってもらったりした。あとはデレクがいない時にも、本が取り出せるように踏み台を持ってきてもらったりした。なぜだか、その時のデレクは悲しそうだった。なんでだろう。
儂は今日もいつものように図書館に来て、魔術書を調べる作業をしていた。まだデレクは着ていない。
しばらく魔術書を読みふけっていると、タタタタタっと人が駆け寄ってくる気配がした。またデレクがやって来たのかと顔を上げると、そこには小さな女の子がいた。クルクルとカールを巻いた金髪に、フリルの沢山ついたドレス。先日中庭で会った王女さまだった。なぜだか知らないがルディが両腕に抱えられている。ジトッとルディを見つめていると、ルディは顔を逸らした。
「魔法を教えて」と王女さまが言った。
儂はいきなり言われて何のことだと思ってしまう。
「あなた、魔法が使えるんでしょ。私に教えて。ばあばが教えてくれないの」
王女さまが偉そうにのたまった。ヴァイオラがいた時はもう少しおとなしく可愛らしい少女かと思ったが、そんなことはない。王女さまは人に命令するのに慣れている。
「王女さま、私は魔法使いの弟子です。大したことは出来ませんし、王女さまに魔術をお教えすることなんて出来ません」
儂はジョンという設定を最大限に活かして、この少女にはお引き取りしてもらうことにした。ヴァイオラが断っていたのだ。儂がちょっかいを出したとしても良いことはないだろう。
「魔術を教えなさい」
王女さまはもう一度言う。ルディを抱える王女さまの腕に力が入る。少しルディが暴れた。
「ダメです。あと、その子を離してくれますか。苦しそうです」
「あ、ごめんなさい」
王女さまはぱっとルディを離した。ルディはすたっと着地するとすぐに王女さまから距離を取り、儂の後ろに隠れた。若干ルディの毛が逆立っていた。
「……ダメ……なの」
王女さまは今度はしおらしい声で頼んできた。手を軽く顔の前で揃えて、やや首をかしげながら上目遣いでだ。潤んだ瞳が儂を見つめてくる。正直かわいい。やはり、この王女さまは自分の魅力をよくわかっていらっしゃる。
「何度もいいますが、ダメです」
儂の中身も子供であったのならば、王女さまの仕草に惚れてお願いを聞いてしまっていたかもしれない。しかし、儂自身の精神はすでに枯れた爺だった。可愛らしいと思ったが、それで判断を鈍らすほどのことでもない。大人はしっかりしないとな。
「まあいいや」、王女様はため息をついた。
「ねえ、何やっているの」
さきほどの落ち込みようは何処へやら。王女さまは好奇心に満ちた目で儂を見つめてきた。
「魔力の回復方法について調べています」
「私も手伝ってあげようか」
「じゃあ、そこの本を……そう言って魔術の勉強をしようとしてませんか」
王女さまはてへっと舌を出すと「バレちゃった」と言った。
「もう王女さまはお引き取りください。私は王女さまに魔術の手ほどきをすることは出来ません」
儂は図書館の出口の方を手のひらで指し示す。
「……お願い」
王女さまのぶりっ子ポーズ。今度はウインク付きだ。
儂は無言で出口を指し示す。
王女さまは肩をすくめると、図書館から出て行った。
王女さまのキャラだともう少し設定年齢あげたほうが良かったか。というかコロコロと表情変わりすぎ。