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第1話:魔法が無くなった

大魔法使い。人は儂をそう評価する。確かに、儂には生まれもった強力な魔力があった。世界最強の魔法使い。

しかし、それも過去の栄光。老いが儂の体を蝕み、思ったように体を動かせなくなっていた。しかし、それも今日までのこと。これが完成すれば儂は・・・・・・




「どこにしまったかな。確かこの辺にしまったはずなんだが」

儂は、ある薬を作るための材料を探していた。あちこちを探し回ったおかげで、部屋中がぐちゃぐちゃだ。羊皮紙は散乱し、薬品の入ったビンは倒れてこぼれてしまっていた。


「ご主人様、何かお探しですか」


猫の使い魔、ルディが聞いてきた。瞳の色が緑と赤のオッドアイの黒猫だ。ため息をつきながら此方にやってくる。


「竜の目玉をどこにしまったか忘れてしまってな。薬の作成に必要なんだ」


年を取ってから物忘れが激しくなっていかん。薬品棚にしまっていたはずなんだが。


ルディは少し考え込む様子を見せると言った。


「確か地下の倉庫の一番奥にしまいませんでしたっけ?こんな貴重な材料は滅多に使わないから倉庫にあっても困らないって言って。」


そうだったか。仕方がない、取りに行くか。

儂は机に置いてあったランプに向かって呪文を唱えながら手を振る。するとランプが浮き上がり、こちらに向かってきた。


「これから倉庫に向かう。そなたは、それまでの道のりを照らすように」

儂はランプに向かって命令する。するとランプは了解したというように縦に一度揺れたあと、儂の少し先を明るく照らした。


「また魔力を無駄遣いして、ランプくらい自分で持ったらいいじゃないですか」

ルディが文句を言う。


「儂の魔力なんだ、どう使おうがかまわんだろ。それに魔力は持て余しているくらいなんだ。使わない方がもったいないじゃろ。」


「ご主人様の場合、そうかもしれませんけど・・・・・もし魔力切れになったらどうするんですか。」


「確かに二流、三流の魔法使いなら魔力を節約する必要があるじゃろう。魔力の枯渇した魔法使いほど使い物にならない者はないからの。しかし、儂は一流、いや、超一流の魔法使い様じゃ。そんじょ其処らの魔法使いと一緒にしてもらっては困る。この程度の魔法など幾ら使おうとも儂の魔力が枯渇することなど有りはしないのじゃよ。はーはっはっは」


得意げにルディに言い聞かせる。


明かりを得たので、倉庫まで竜の目玉を取りに行く。しかし、倉庫までの道のりは遠い。儂の住んでいる場所は、はるか昔の領主が住んでいたと言われる古城である。若かりし頃の功績に頂戴したものである。城と言われたら、凄いかも知れないが、周りは魔物が生息する森に囲まれており、街からも離れている。戦略的価値も全くない代物だった。じゃあ、なんでそんなところに城があるんだ、と聞かれてもそれは知らん。建築されたのが遙か昔で、碌な記録がないのじゃ。


戦略的価値はないと言っても、城ということで当然のように広い。というか広さだけが取り柄じゃった。

魔法薬の生成に用いる作業場から地下の倉庫まではかなりの距離じゃ。


「ところでご主人様、なんで竜の目玉なんて必要なんですか。」


倉庫に向かいながら、ルディは聞いてくる。


「よくぞ聞いてくれた。ついに完成するんだよ。念願の薬が。」


「薬?ご主人様って何か病気を患ってましたっけ。」


ルディは首をかしげる。


「若返りの薬の作成に必要なんじゃよ。儂もかなりの歳を取ったしの。若い体が欲しくなった。」


「やれ腰が痛い、やれ脚が痛いと五月蠅かったですしね。もうこの爺の先も長くないなって思ってましたよ」


うんうんとルディはうなずく。酷い言いようじゃの。本人の前で言うか。


「そう。儂も長い時間を生きてきた。体のあちこちが悲鳴を上げて、もう先も長くないだろうと考えておった。しかし、若返りの薬を飲むことで減った寿命を取り戻すことができるんじゃ。」


そう話しているうちに地下の倉庫に降りてきた。ここには普段使わないが、捨てるにはもったいないものが仕舞ってある。竜の目玉もその一つだ。いや、竜の目玉はあまりに貴重すぎるため使用することができないものか。


そもそも竜の存在自体が稀少である。数百年から数千年を生きる竜は滅多に数が増えない。あまりに寿命が長いために種を保存しようとしないのだ。


その竜達を討伐して、目玉を採取する訳だが、そう簡単にいくものではない。竜達は大きな体で空を飛び、四肢には鋭利なかぎ爪を持ち、口からは炎や酸のブレスを吐いてくる。並の人間が相手にできるものではなのだ。


そんな竜の一匹を偶然討伐出来たときに入手したのが、今から取りに行く竜の目玉だ。


地下の倉庫前にたどり着いた。大きな扉に閂がかかっている。この城が使われていた頃は、武器や食料が仕舞われていたらしい。

懐から鍵の束を取り出して、扉を開ける。大きな扉を開けるのは年老いた体には堪える。


竜の目玉はホルマリンが満たされた瓶に入れられていた。黄色の液体の中に大きな二つの目玉が浮いている。これが今回の薬づくりには欠かせないのだ。


竜の目玉をとって、作業部屋に戻る。いよいよ若返りの薬作りだ。まずは大きめの鍋を用意する。水を張って、鍋を火にかける。ユニコーンの角に、竜の目玉、人魚の涙、その他にも薬草をちらほら。

必要な材料をいれると呪文を唱えながら、鍋をかき混ぜる。鍋からは紫色の煙が立ち上り、怪しく光り出した。鍋から漂ってくる臭いが酷い。味は想像したくないな。


「ご主人様、これを飲むんですか」

ルディはあまりの臭いに鼻にしわを寄せている。

「そうだ。この薬を飲めば、若返ることができるんだ。多少の臭いくらい我慢するさ。」


「よし、これで良いかな。」

頃合いをみて鍋の火を止める。鍋の中にあった材料は全て溶けてしまって、どろりとした液体のみが残っていた。これが若返りの薬か・・・・・・。

これを飲めば、若返ることができる。頭の髪は白くなり、視界はぼやけるこの不自由な体とはおさらばして、若かったあの頃に戻ることができるのか。


「完成ですか」

ルディが聞いてくる。

「ああ、儂の考えが正しければ、これを飲むことで若かったあの頃の体を取り戻すことができるはずだ。お前も飲んでみるか」

ルディに振り返って聞いてみる。

「遠慮させて頂きます。まだまだ私は若いですからね。ご主人様の使い魔になってから寿命も延びましたし、今は良いです。また私が年老いてしまったときに作ってくれるとありがたいです。」

「はっはっは。そうか。まだおぬしは若いというか。良かろう!おぬしがよぼよぼの爺になったときに作ってやろう。それまで儂に付き従うのじゃぞ。」

「ありがとうございます。」


儂は若返りの薬を口に含んだ。

「うっ」

魔法薬を口に含んだ瞬間からだが熱い。視線を手に落とす。節くれ立った指が小さくなり皺がなくなる。視線も少しずつ低くなり、身長が縮んでいくのが分かる。体のあちこちの細胞が新たに作り替えられている。若返っているのは実感できるのだが、急激な変化について行けない。体が熱くなってくる。儂を燃やし尽くそうと熱が暴れまわる。灼熱地獄にいるようだ。このままだと死んでしまうのではなかろうか。立っていることができない。

ルディが心配そうに此方を見ているのが見えた。大丈夫だと声をかけようとしたが声が出ない。視界がぼやけていく。


・・・・・・




どれくらい眠っていたのだろうか。窓の外は日が昇り明るくなっていた。どうやら薬の影響で気を失ってしまったようだった。ゆっくりと体を起こす。周りを見渡す。儂の部屋のようだ。ベッドで眠っていたらしい。作業部屋から誰かが運んでくれたのだろうか。


「ご主人様、お気づきになられましたか。ご主人が気を失ったので魔法でベッドまでお運びしましたよ。」

黒猫のルディが声をかけてきた。ルディはベッドの隅にちょこんと座っていた。どうやら看病をしてくれていたらしい。

使い魔のルディは、物を浮かせるなど簡単な魔法なら使えた。

「ああ、ありがとう。」

儂の口から少年のような高い声が出た。

「なんだこの声は」

「ふふふ、ご主人様の声ですよ。でも不思議な感じですね」

ルディがうんうんと頷きながらいう。

「一度鏡でご自分の姿を確認してみたらどうでしょうか。」

ルディはしっぽで鏡を指し示す。

儂はベッドから降りると鏡の前に立った。鏡にはぶかぶかのローブを着た10歳程度の少年が映っていた。小さかった頃の儂だ。

「ほんとに若返ることができたんだな」

しみじみと言う。年老いてあちこちにガタがきていた体にはほとほと嫌気がさしていたので、新しく若返ったことに嬉しくなる。体のあちこちを動かして異常がないか確かめる。飛び跳ねてみたり、部屋の中を軽く走ってみたりした。

「どうですか、若返った感想は」

ルディが尋ねてくる。

「最高だ!体が軽いぞ。あちこち動かしても体が痛いということがなくなった。」

「それは良かったです。」


あらかじめ用意していた子供用の服に着替える。

「お似合いですよ。ご主人様。」

「ああ、ありがとう。しかしこの服を村の連中に頼んだ時は不思議な顔をされたな。」

「そりゃそうですよ。ご主人様には子供がいないですもの。それなのに子供用の服を届けてくれだなんて不思議に思っても仕方がないですよ。」

「そういうものか。それでは、村の連中に服が役に立ったことを見せてやるか。よし、これから村に行くぞ。」

「了解です。」


村に向かう準備をすることにする。何より大事なのは魔法の杖だ。魔法使いにとって魔法の杖は必需品である。魔法の杖があると、魔力を増強してくれたり、制御が容易になる。

「魔法の杖はどこにやったかな。あれがないと落ち着かんわい」

ルディに聞く。気を失っていたせいで魔法の杖がどこに置いてあるのかわからなかった。

「あ、それなら部屋の入り口の近くに立てかけてありますよ。」

ルディがしっぽで指し示す方を見ると、魔法の杖が部屋の入り口付近に立てかけてあった。長さは140cmほどの長い木の杖で、杖の先端には燃えるように赤い宝石がはめ込まれていた。

儂は呪文を唱えながら、腕を杖のほうに伸ばす。

「杖よ、来い」

杖はわしの腕に吸い込まれるように飛んでくる・・・・・・・・はずだった。

「来ませんね」

目を細めながらルディがいう。そう魔法の杖が来ないのである。いくら念じてもうんともすんともいわない。全く微動だにせずに壁に立てかかったままであった。

「おかしいな」

物を手元に引き寄せるといったような簡単な魔法は、杖がなかったとしても行うことができた。少し離れたところにある杖をいつも魔法で手元に引き寄せていたので、今回飛んでこなかったことに不思議に思う。

仕方がないので杖のところまで歩いていく。杖には変わった様子はなかった。いや一つだけあった。若返ったおかげで身長が縮んだために、杖のほうが自分の背丈よりも高くなってしまっていた。

しかし変化と言ってはそれくらいで、杖には不審な様子はなかった。見た目はいつも使っている魔法の杖である。長年の使用によって刻まれた傷もちゃんとある。

杖が手元に飛んでこなかったことに不思議に思いながら、魔法の杖に手を伸ばす。手に取ってみてもやはりいつもの杖である。


部屋の真ん中あたりに置いてある机に体を向ける。両手で抱えた杖の先端を机に向けて、呪文を唱える。


「机よ、浮け」

机はピクリとも動かない。

嫌な予感がしてくる。まさかな。

杖に対して魔法をかけた時は、杖の調子が悪いのだと思った。しかし、机に対して魔力を使った時も魔法が発動しなかった。魔法が使えなくなっているのではないだろうか。


机の上に乗っている羽ペンに杖を向ける。そして、同じように呪文を唱える。

「ペンよ、浮け」


ペンもピクリとも動かなかった。全く魔法が発動する気配がない。これでもかというほど念じてみても、自分の体から魔力が流れ出ていく感覚がなかった。

「ご主人様?魔法が使えないんですか?」

「そのようだ。」

「大魔法使いアルバート様が?」

「そうだ。」

「これからどうするんですか?」

「うむ・・・・・」

儂、大魔法使いアルバートは魔法が使えなくなっていた。


超絶見切り発車です。

せっかく書いたものだから投稿してしまおうというものです。HDDに無駄に保存されているよりは良いかなぁっという判断です。


うまく話を書き続けられるのか、そもそも完結させることができるのか不安ではありますが、頑張ろうと思います。



ブログ(story.ouvill.net) にも投稿しております。

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