二階五号室 一休さんを読んでやる女
二階五号室住人紹介
姫百合心花・・・年齢は多分五歳とかそのくらいの女の子。頭が良く空気が読める上に、心優しい癒し系。
お姉さん・・・本名不明、年齢不詳、男性履歴不遇の三重不。酒好きで、良く心花に童話などを聞かせてあげているが、心花との関係も不明。
この日一休さんは将軍様に呼ばれて、将軍様のお城に登っていました。
将軍様は一休さんにいつもいつもトンチ勝負を挑んでくる少し困った人です。
一休さんが頭を下げていると、隣にある屏風を扇で指しながら将軍様は言いました。
「実はな、夜な夜なこの屏風の虎が出てきては悪さをして困っておる。何とかしてくれ一休」
屏風には、なんとも立派な虎が描かれていました。
確かにその迫力たるや、今にも飛び出してきそうな勢いです。
「分かりました。しばしお待ちを」
そう言って一休さんは座禅を組みました。
周りにいる将軍様やお侍さんたちもなれたもので、一休さんが座禅を組んだ途端、邪魔しないように皆一様に口を閉ざします。
「…………分かりました」
一休さんはそう言うと、ぺろりと唇を舐め、不敵に笑いました。
手早く鉢巻をして、たすきがけをすると、縄を持ってきてもらって、屏風の前で構えました。
「それでは将軍様。まずは、この虎を屏風から出してみてください」
「何を言っとるんじゃ一休、虎が出てくるのは夜だと言うとるじゃろう、とりあえず寝床を用意させよう」
「……………………………………へ?」
唖然とする一休さんを置いて、将軍様は部下にテキパキと寝所の準備をさせました。
瞬く間に寝仕度を整えられて、一休さんは日も高いうちから、布団に押し込められました。
――――その夜。
「がるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……」
青白い火の玉を従えながら唸っている虎を前に、一休さんは立ちすくんでいました。
鉢巻がずれ、たすきは緩み、手に持ったダラリとたれている縄は、得物として滑稽ですらあります。
「ほれ一休何をやっとる。なんとかせんか」
部屋の外から、数人で襖に隠れるようにして見ていた将軍様が何か言っていました。
茫然自失としている一休さんにはなんのこっちゃ分かりません。
(坊主が求められてるとはなー……)
牙を剥く虎の前で、一休さんはしばらく突っ立っていましたが、意を決したように鉢巻を巻きなおしました。
たすきを素早くかけなおすと、手に持った縄をひゅんひゅんと回し始めます。
「……まあ、ただではやらせんさ……」
唇を舐めると一休さんは不敵に笑いながら、足を一歩踏み出しました。
――――これが世に言われる、一休の虎退治、でございます。
「てっきり尻フェチだと思ってたのに、鎖骨マニアとはね。……人は見かけによらないわ」
窓辺で月を眺めながら、お姉さんは言いました。
どこか嬉しそうな彼女に、どうしてか心花まで嬉しくなってしまいます。
「なにかいいことあったの?」
大きな一升瓶を抱えてお酌をしながらたずねると、お姉さんは盃を傾けながら頷きました。
「人間、何を求められるか分からないわよね…」
その言葉に頷けるほど、心花ちゃんは大人ではありませんでしたが、盃が空になったのを見てお酒を注ぐと、お姉さんは嬉しそうな顔になりました。
良く分からないけど、嬉しそうだからそれで良いや。
そう思いつつ、一緒に月を眺める心花ちゃんでした。
それでは良いお年を。