二階五号室 金の斧と銀の斧を読んでやる女
二階五号室住人紹介
姫百合心花・・・年齢は多分五歳とかそのくらいの女の子。頭が良く空気が読める上に、心優しい癒し系。※心花という名前は、宮座頭数騎さんに許可を頂いて使用しております。
お姉さん・・・本名不明、年齢不明、男性履歴不明の三重不。酒好きで、良く心花に童話などを聞かせてあげているが、心花との関係も不明。
昔々、あるところに、正直で真面目な働き者の木こりが住んでいました。
その日も真面目な木こりは、いつものように森へ行き、木を切っていました。
その時です。
スルッ。
なんという事でしょう、木こりは斧を手から滑らせてしまい、斧はそのまま、ばしゃんと音を立てて、泉の中へと消えていきました。
「ああ、何てことだ。大事な斧が泉に落ちてしまった」
泉はとても深くて、斧はサッパリ見つかりません。
木こりは悲しくなってきました。
泉のそばで、木こりが泣いていると、ぶくぶく音が聞こえてきて、泉の中からとても美しい女神様が現れました。
「うひゃあ」
突然現れた女神様に、木こりが驚いていると、女神様はその手に持った輝く金の斧を木こりに見せて、
「貴方が落としたのは、この、金の斧ですか?」
と訊ねました。
正直な木こりは、
「いいえ、それは私の落とした斧ではありません」
と正直に答えました。
そうですか、と言い、女神様は泉の中に姿を消すと、しばらくしてもう一度現れました。
「それでは貴方の落としたのは、この、銀の斧ですか」
今度は眩い銀の斧を木こりに見せて、そう訊ねました。
「いいえ、私の落としたのはその銀の斧ではありません」
今度も木こりは正直に答えました。
女神様はそうですかと言い、また、泉の中に姿を消しました。
その隙を見計らって、木こりは立ち上がりました。
くるりと後ろを向いて、急ぎ足で家へと逃げ帰ります。
「恐ろしい泉だ。もし自分の斧だ何ていったら、なにをされるか分からん」
幸い、木こりは真面目できちんと働いていた為、斧をもう一本買うくらいの蓄えはありました。
あの斧で無ければだめだと言う、こだわりも特にありませんでした。
次の日、町で無事斧を購入した木こりは、今度の事を教訓にして、傍に泉のない森で木を切っては売り、つつましく平和に暮らしました。
しかし、重い斧を三本も持って、誰もいない森に姿を現した女神様こそ、好い面の皮だった事でしょう。
おしまい。
「みはなの知ってるお話と違うよ」
お姉さんの膝の上で、心花は後ろを振り返りました。
見ると、お姉さんは煙草をふかしながら、窓の外の遠くの方を見ています。
「臆病な男ってのはね、こちらから尽くせば尽くすほど、離れていくものなのよ」
一体その目は、どこを見て、何を捉えているのでしょう。
呟くように語るお姉さんの口調がとても気になりましたが、優しい心花ちゃんはそれ以上何も聞きませんでしたとさ。
めでたしめでたし。