駄目な叔父さん
年末という事で皆さんお忙しいとは思います。
だからこそ、少しこの話を読んで落ち着いてもらえればと思います。
「アキ、おじさんになるよ」
赤い一本の線が入った体温計の様な器具の写真と共にそんな通知が来た。
私には姉がいる。
姉とは四つ、いや五つだったか。兎に角それぐらいの歳の差がある。
その姉も通知の来る一年前に結婚した。
結婚式は初めてではなかったが花嫁の弟と言う事もあり、なるべく下手な真似をしない様に注意を払っていた。
しかし、食欲には抗えず、父や母が挨拶回りに出る中一人席に残り、料理を貪っていた。
恐らく見ていた人は花嫁の弟の無頓着さに呆れ返っていた事だろう。
そんな私に気付いて従兄の兄さんが来てくれて話し相手になってくれた。
ノリの良いお喋り好きな人だ。
その兄さんと食っちゃ喋りを繰り返していた。
姉の同級生たちによるパフォーマンスは面白かった。
姉は式の間よく笑い、そして泣いていた。
とても幸せそうだった。
それから一年後、姉は小さな蕾を身籠った。
素直に嬉しかった。
だが、その反面何処かどうでもいいと思っている自分がいた。
私はおかしいのだろうか。
少し気が重くなった。
それから月日はどんどん過ぎて行く。
日に日にお腹が大きくなっていくと送られてくる姉の写真。
その顔は笑顔だが、なんとなく今までの姉と違い、優しい穏やかな顔になっている気がした。
本人はそれを「私も母性に目覚めたけんね」と軽口を叩いていたが、強ち間違いではないと思った。
里帰り出産を選んだ姉は旦那さんと離れ父母のいる実家に戻っていた。
「母のお節介がウザい」と愚痴をもらった。
母からは「今日ナツがね〇〇な事したのよ!信じられる!?」とのご連絡が来た。
それぞれに「母さんも姉貴が心配なんだよ」「まぁまぁ、周りが心配し過ぎるのもいかんよ」と無難な返事をしておいた。
この時ばかりは女性の求める回答を提示してくれる人工知能が欲しいと切に思った。
そしてあくる秋の深夜、母から連絡が来た。
と言ってもそれは言葉ではなく写真。
清潔感のある白い布の上にちょこんと仰向けになっている赤い猿。
何枚も立て続けに送られてくる写真のモデルは姉が苦しんで苦しんで世界に産み落とした神秘だった。
涙は出なかった。
ただ、体中に鳥肌が立ち、うつらうつらとしていた眼がまるで神の使命を帯びたかの様に冴えわたり、思わず立ち上がりペットボトルのお茶を一気に飲み干してしまった。
私はこの小さな輝きに魅入られてしまった。
これが感動というものなのかもしれない。
これまでの人生で全く感じたことのないものだった。
それからというもの、送られてくる姪の写真や動画を楽しみにしている自分がいる。
送られてきたものはすべて保存している。
生まれたばかりの頃は目の見えない様子で頻りに頭や手を動かしていた。
可愛い。
生まれてから一週間ほどで彼女は赤ん坊になっていた。
そしてとても小さかった。
彼女の手には小さな手袋の様な物がはめられていた。
可愛さが倍増していた。
これを考えた者は天才だとも思った。
少しすると瞼が開いて来て物が見えている様に見受けられた。
とても可愛い。
この子は良く泣き、よく食べ、よく出す子らしい。
彼女が生まれてから一ヶ月経った。
顔は丸くなり、表情もだいぶ豊かになっていた。
ふとした時に出るあくび、眠気にうつらうつらと揺れる頭、撮影している携帯が気になるのか手を伸ばす仕草、どれをとっても愛らしい。
これらを計算付くでやっているのだとしたら彼女は将来とんでもない小悪魔系女子とやらに育つだろう。
そうだとしても叔父さんは君を可愛がるよ。
だって可愛いもの。
彼女は僕に力をくれる。
それは決して母でも姉でも好きな異性でも恐らく地球上の誰にも出来ない姪だけの特別。
ふと思った。
彼女が大きくなった時、私のこの気持ちはどうなっているのだろう。
より強くなっているだろうか。
それとも、お気に入りだったゲームや漫画の様にたちどころに消えてなくなっているだろうか。
それは分からない。
ただ一つ言える事がある。
彼女は希望だ。
そんな彼女に会いに行ってみようと思う。
久々の帰省、不思議と楽しみだ。
明日の不安をも打ち消す輝かしい存在。
そんな姪よ、一つ言い訳をさせてくれ。
職はすぐ見つけるから、だから叔父さんを嫌いにならないでおくれ。
お土産は少し豪華にしよう。
そう言って就職情報サイトからブラウザバックした。
如何でしたでしょうか。
この短い話が少しでも皆さんの癒しになれたなら幸いです。