人魚姫は人間になる
〜♪〜♪〜♪〜♪〜
歌が聞こえる。
小鳥のさえずりのような耳心地の良い調べにのせた鈴のような歌声
身体は所々がキシキシと痛んでいるがこの歌声が心をじわりと暖め自分の身も心も癒しているようだった。
重い瞼を薄っすらと開けるとクリスは息を飲んだ
なんとも美しい…天使のようだ。
いつものクリスならくさいセリフだと一笑するようなセリフが浮かんだ。
青とも緑とも言えない深みのある海の色をした大きな丸い瞳。
赤いぽってりとした唇は丸顔丸目の童顔の少女には不釣り合いな色気が漂っていた。
君は誰だ?
クリスはそう言おうと口を開いたが声が出ない。
そしてそのまま意識は暗転した。
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「貴女が海の魔女?」
「何の用だい?6番目の人魚姫様?」
噂とは違いナイスバディの色気が漂う女に海の姫、
アリアは驚きを隠せなかった。
ここは海の中でも入ってはいけないとされる魔女の森
海藻に覆われた深海にひっそりと住む魔女はそれ相応の対価を渡すとどんな願いでも叶えてくれるという。
「私を人間にしてちょうだい」
意を決してアリアが告げると魔女は大きな声で笑った
「なに?」
「本気で言ってるのかい?」
「本気よ」
「もう王様やお姉様方には会えなくなるんだよ?」
分かっている。
父や姉は私が末っ子だから目に入れても痛くないと可愛がってくれる。
それでも私はあの人が忘れられない。
あの人と同じ立場で会いたいのだ。
アリアは真っ直ぐに真摯な思いで魔女を見つめた。
「面白い」
魔女は見定めるかのようにアリアを眺め、二人の間に重い沈黙が流れた後、魔女はニヤリと笑った。
「お前を人間にしてやろう」
「本当!?」
アリアは歓喜に震えた。
そんなアリアの様子に魔女はますます口元を吊り上げる。
「対価は声だ」
「声?」
「人魚の声は美しく歌には癒しの力がある。
それを差し出せるのなら人間にしてやろう」
「良いわよ」
迷うことなく即答したアリアに魔女は面白い奴だねとつぶやきながら自身の引き出しから青色の貝殻の瓶を取り出しアリアに渡した。
「これを飲みな」
「なにこれ?」
「秘薬さ。」
「ありがとう!これを飲めば良いのね!」
「あぁ、だがね、これを飲むとお前は二度と人間には戻れない。そして王子と想いが通じれば声が戻るが王子が他の相手と思い合い結婚した場合はお前は泡になって消える」
それでもいいのかと魔女は試すようにアリアに笑いかけるとアリアはこくりと頷いた。
「では早くお飲み。私を楽しませておくれ」
アリアは貝殻の瓶の蓋を開け一気に飲み干した。
すると、鋭い剣が刺すような痛みが身体中を駆け巡りアリアは意識を失った。