にゃんとうるさいお客様
マキとヤンは仕事の手を休めて立ち話をしていた。
「ヤンさんってオタクそうですよね、今季のアニメは〜とか言ってそうです。」
「酷い偏見……まぁゲームに関してはオタクかもね。」
マキは以外にもすんなり認めるヤンに少し戸惑う。
「へ、へぇ……どんなゲームするんですか?」
「そうだなぁ、セールスオブジアビスとか。」
「あ!あれアニメが面白いですよね!」
「いやアニメの方は見てないや。」
マキに先ほどの自分で言った言葉が帰る、マキは誤魔化そうとゲームに話題を戻す。
「他には!他には何かおすすめ無いですか!?」
「えーとドエスかロジーのアトリエとか。」
「あっ!あれもアニメが……っは!?」
マキに冷や汗が流れる、ヤンはニヤリとして
「へぇ、マキさん詳しいねぇ。」
と顔を真っ赤に染めるマキを眺めた。
その時大きな音を立てて扉が開く。
「っしゃ!ニャア!!今ドエスかロジーって言った!?」
目を丸くした二人が扉の方に目を向けるとメイド服に猫耳を付けた女の子が仁王立ちをしていた。
「アニメ好きはみんな仲間だからにゃ!交友を広めるにゃ」
マキは口角を釣り上げ
「うわぁ。」
と小さく漏らした。
「世界ジャパンアニメクラブ会長こと岩崎リンにゃ!よろしくにゃ!」
「へぇ、普通の名前なんですね。意外でした。」
マキは勝手に自分で淹れたコーヒーを飲みながらつぶやく。
「なんか冷めてない?酷くない?」
「猫語忘れてますよ。」
「この人嫌いにゃ。」
涙目でヤンにしがみつくリン、ヤンは苦笑いをしてリンを剥がす。
「ヤンさん、嬉しそうですけどそういうのは化けますよ。」
リンは目を細めてマキに反論する。
「あー、悔しそーな顔してるにゃ!この人のこと好きなんだー!」
「違うわよ!!こんな情けないののどこがいいの!」
マキが低いトーンで言う。
「情けない……」
ヤンが落胆するのをリンがすぐにフォローする。
「お兄ちゃん落ち込まないでにゃ!この女の人が素直じゃないだけだから!」
マキはコロコロと表情が変わるヤンをみて
(こんな風にオタサーが出来るのね。)と思った。
ヤンは居心地の悪さからすでに厨房のほうへ避難していた。
「マキさんと言いましたか、先ほどドエスかロジーについて言及しておりましたにゃ、ってことはマキさんもガチオタですにゃ。」
マキは目を丸くして怒る。
「はぁ?私がオタク?やめてください。」
リンは鼻で笑う。
「オタク程オタクを嫌うにゃ、自覚が無いとは痛々しいにゃ。」
「そのニャって語尾のほうが痛いです。」
相変わらず二人の間に流れる空気は不穏である。
しかしリンは少し悲しそうな顔をしてマキに言う。
「そんなにオタクが気持ち悪いかにゃ?」
「え?」
マキは先ほどまでの好戦的な姿勢とは打って変わったリンの言葉に言葉を詰まらせる。
「いやその、別に……気持ち悪いなんて言ってないし。」
「なんでアニメやマンガが好きなだけでそんな風に見られなきゃいけないのかにゃ。」
マキは急に弱気になるリンを見てどう対応すればいいのか分からずに困惑した。
そんなマキを置いてリンは続ける。
「私はただアニメが好きで、ロマンチックな物語とかが好きで見てるだけなのに。」
「私だって!」
マキが少し恥ずかしそうにしながらリンに言う。
「私だってその……アニメ、好きだよ。だからさ気持ち悪いとかないから。」
リンは少し表情が明るくなる。
「うん、へへへなんだ、マキさん良い人だったにゃ。」
マキは微笑むリンをみて少しホッとした気持ちになった。
「あっ、でもドエスかロジーはつまんなかったよ。ドエスのキャラがキツすぎたかな。」
「えぇ!ドエスかロジーのSM芝居が面白いんだにゃ!」
リンの帰り際二人は連絡先を交換した。
髭男は彼女達のやりとりを遠巻きから見ていた。
「マキちゃんサボり魔だよ、もう。」
不機嫌にそう言う髭男にカエデが
「サボりになるほど客もいないでしょ。」
と突っ込む、髭男は言い返せずに唸っていた。
「なんで客こないかなぁ。」




