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スイーツパニック 後編

 薄暗い地下室でマキと髭男は体育座りをして助けを待っていた。

「ヤンさん来ませんねえ。」

マキがあなたのせいですよと言わんばかりに口を尖らす。

「だ、だってあの料理?が完成したら何か起こりそうじゃん!」

「そうですけど……」

少し会話をしては沈黙が訪れる。

「なんか暇ですねえ。ヤンさんも迷ったんじゃないですか?」

「いや、それは無いと思うぞ。アイツには4回ぐらい助けられてるから。」

「なんでそんなとこに引き込んだんですか!!」

マキがまた不機嫌になる。

「まあ信じるものは救われる!な!」

「はあ……あほらし……」

マキが呆れたところで髭男があることを切り出す。

「ところで……さ。」

「はい。」

「おしっこ漏れそうなんだけど……」

「……は?」

マキは顔を歪めて髭男を見る。

「いやだから」

「いや分かりますよ聞こえましたよ!」

「していい?ここで」

「ダメに決まってんでしょうが!乙女にそんなの見せつける気か!」

マキはドン引きして後ずさる。

「大体おっさんのお漏らしとか需要ないだろ!もうやめて!臭い!」

「そこまで言うことねーだろぉ!!大体マキちゃんこそ!その香水臭いでーす!似合ってませーん!」

髭男が小馬鹿にした表情でマキを責める。が

「んだと!!」

マキの蹴りが髭男のGold Ballに直撃する。

髭男はその場でうずくまり

「ちょ、それはだめだって……あっやばい。」

マキは目の前で起こってる惨状を目の当たりにして絶叫した。



 そのころ厨房では禍々しい粘土がオーブンに入れられるところだった。

「こういうのは真心よね、レシピは味薄そうだからカエデオリジナルにしたわよ!」

メシマズの掟を見事にやってのけるカエデ、焼かれている物体は今にも動き出しそうである。

「はぁー、疲れたちょっと休憩しましょ。」

トースターの近くに座り本を読み始めるカエデ。

「あの人喜んでくれるかな……」

昼の暖かい空気に意識を持って行かれカエデは眠ってしまった。



 「う、嘘でしょ……」

あまりの痛さに気絶した髭男が横たわっていた。

「惨状って気絶のことだぞ!!」

何もない壁に向かって指を指すマキ

「いや〜しかしやっちゃたなぁ、アニに止められてたんだけどハハハ」

一人芝居を堪能した後、髭男を起こすマキ

「起きてくださいよ、いつまで寝てるんすか。」

「ん……あれ?ここは?あっそうか出れなくなって……」

気絶する前のことを思い出す髭男。

「で、マキちゃんに股間蹴られたと。」

目を細めてマキを見る。

「マキちゃん、普通ならクビなんだけど。」

マキはいつの間にか土下座をキメていた。

「はぁ、まあいいよ。俺も言い過ぎたのはあるし。」

マキはすぐに顔をあげて満面の笑みを作った。

ふと、髭男はあることに気がつく。

「なんか、匂いがする。」

マキはハッとして声をあげる。

「きっとカエデさんのお菓子の匂いですよ!」

「え、でもこんな普通の匂いなの?」

髭男は不思議そうに眉を寄せるがマキは髭男の腕を掴んで匂いの方へ引っ張っていった。



 しばらく歩くと天井から差し込む光が見え始めた。

「あっ!あれじゃないですか?出口!」

マキが指をさして歓喜の声を上げる。

「本当だ!生きて帰れた!!」

髭男も喜びの声をあげてアルミの蓋を持ち上げる。

やっと厨房に入ることが出来た二人。思い思いの事を口にする。

「あー、やっと出れた!トイレ行こう!」

「生きてる!やった!」

だが二人は寝ているカエデの存在に気づいて本来のミッションにかかる。

「危険物を探せ、どうぞ。」

「了解したサー任務に移る。」

トランシーバーを構えたふりをして兵隊ごっこをする。

しかし探しても危険物は見つからない。その代わりに机には香ばしい香りを放つクッキーが置いてあった。

マキはそれを見て髭男に言う。

「これ、もしかしてカエデさんの作ったクッキーじゃ」

髭男は作っている時からは想像も出来ないほど整ったビジュアルのクッキーをみて不信がるがマキは戸惑うこと無くクッキーを口に入れる。

「美味しいじゃないですか。大げさでしたね店長。」

「うそだろ……本当だ美味しい。」

カエデの作るクッキーは製法がさっぱり分からなかったが後にお店に並ぶことになった。



 そんな頃、ヤンは今だに地下を彷徨っていた。

「店長どこまで潜ったんだ?どこにもいない……」

起きたカエデとティータイムをしている二人は自分から呼んでおいてすっかり忘れていた。

「あら?ヤン君どこにもいないわねえ。」

「「あ。」」

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