アカン
「カエデさんいますか?」
ヤンがキッチンの扉を開けてひょこっと顔を出す。
「あらヤン君、どうしたの?」
カエデは清楚なエプロンに見を包みステンレスのボウルを抱えていた。
ヤンはそのボウルの中身を覗きこむ。
「うわぁ、相変わらず凄い色っすねえ!ねるねるねるねでも作ってるかのような色。」
「もうなんでそういうこと言うの!?悪い子にはこうしてあげる、えいっ!」
カエデは泡だて器に付いたものをヤンに飛ばす。
「あはは、やめてくださいよー溶ける溶けるー。」
「あはは、は?てめえ。」
ヤンはまあまあとカエデをなだめた。
「ところで何か用が合ったんじゃないの?」
そうカエデに言われたヤンは紙袋を取り出し
「これ店長がカエデさんにと。じゃあ僕はこれで。」
と言うとその場を立ち去った。
「なんだろうこれ……。」
袋を開けるとそこにはジャムの詰まった瓶があった。
「洒落たものおくるのねえあの人。」
カエデは早速開けてみようと瓶の蓋を手に取り力を入れた。
しかし瓶の蓋は依然として動かない。
「うわ硬……フンッ!……うわ硬!」
有史以来瓶というものは一発で開かないようになっているのである。
カエデはナイフを取り出し。
「くらえ!!」
と言いながら蓋に突き刺す。もちろん刺さるはずは無く刃が折れる。
そこへ髭男が入ってくる。
「どうだ?あれ美味い?」
キン!と音を立てて髭男の横の壁に刺さる刃。
「そっ、そんなに気に入らない?ごめんよ?な?」
「そうじゃないわよ!!」
その場にペタンと座り込むカエデ。
「瓶開かないのォ!」
しかしその場から髭男はすぐに退散していた。
「いない!!畜生!」
カエデは机の上の憎き瓶を手に取るとコンロに置いた。
「蓋を、膨張させれば……」
迷うこと無くスイッチオン、激しい炎に包まれる瓶。
開かないという理由で炙られる瓶。
カエデが火を消すと黒く変色した瓶が目の前にあったがカエデは迷うことなく鷲掴みにしてひねる。
「これだけやれば開くでしょ。」
もはや熱膨張など関係ないほどに炙っていたが瓶は無事開いた。
「ほらあ、やっぱり開いた。」
もちろん中は無事でなかったが。




