表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼうけんの司書  作者: 嫁葉羽華流
共国歴185年 白羊の月12日。晴れ。ウォンタリア領スウェトニアにて。
8/29

「あ……あじゅぃいいいい……口の中で肉汁がじんわり広がって美味しいいいいい……」

3部、最後です。最初から一部で投稿しなかったのは読んでいて区切りのいいところでやっていたからです。大体の嫁葉さんは1500~3000程度に収めようと心がけています。

「ソウヨソウヨ! 酒はほかの食べ物腐りにくくスル聞いたことアルネ! ショウガに関しても同じヨ! なんかお酒にいる精霊が食べ物を腐らせる素をバリバリ食べるとか!」

「はぁ? おいラン、正気で言ってんのか? 食べ物を腐らせる素を食うって……」

「うぇっへへへへへ。それが本当なんだぜぇ、ルジェぇ」


 美味しそうなにおい……ではなくって、これは『美味しいにおい』だと思った。

 本当にこれでご飯が食べられるほどのいい香り!


「……ん? なんだこれ? すげぇいいにおいがすんぞ!?」「うっわ!? 見てみろよパセリが持ってるあの皿! すげぇ量の……なんだあれ!?」「な、なんかの塊がゴロゴロしてるぞ……!?」


 周りの冒険者が口々にはやし立てる。

 そこには山のように積まれた茶色いころころとしたものが乗っかっていた。


「酒は俺の自前だが、まぁ勘弁してくれ。さぁ、おあがりよ!」

「……ライブ、食べてみろ」

「ええ?」

「だな。とりあえず食ってみろ」

 

 この時、みんなが警戒していたのがわかる。

 みんな見たこともない料理に驚いていたんだと思う。ほかの人もじーっとこちらを見つめていた。


「じゃ、じゃあ……一口」


 といって素手でおずおずと『肉のカラアゲ』をつまんだ。

 えいっ、と一口放り込んで……


「!?」


 直後、倒れた。


「!? ライブ!?」

「どうした!?」

「アイヤー!? オニーサン!?」


 ほかの三人が近づく。でも僕が倒れたのはマズイからじゃなくって……。


「あ……」

『あ?』

「あ……あじゅぃいいいい……口の中で肉汁がじんわり広がって美味しいいいいい……」


 泣きながら僕はその場で言った。

 この場だから言えるけど、その『肉のカラアゲ』は『油を鍋いっぱいに満たしてその中で揚げた』のだという。

 パセリさんもどうしてそうやったのかはわからないけれども、自然とこうするのが一番だと思ったらしい。

 その目論見は大正解だった。

 先ほどの肉料理とは比べ物にならないほど、絶妙な肉汁の割合。

 からっと揚げられたカラアゲの外側がまたジューシーにできている。

 ほんわりと薄く広がるお酒の香り。これならとても美味しく感じる。

 時たまぴりっと来るのはショウガだろう。甘辛さを飽きさせないぴりっ、が時折やってくる。

 僕が「おいしい」と言ったとき、ルジェさんが食べてみたら目を大きく開けて、噛んで、噛んで、噛んで、

 噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで噛んで……飲み込んだ。そして、


「う……うんめぇえええええええええええええええええええ!?」


 と叫んでカラアゲを無我夢中で口の中に入れて食べていた。


「これは……!? 芳醇な香りがふわっと……!?」

「ホアチー!! これトテモオイシヨー!!! ほっぺ落ちるネー!」


 ほかの二人も絶賛していた。

 ぐらり、と立ち上がって見ると、ほかの冒険者もこぞって『肉のカラアゲ』を食べていた。


「う、うんめぇええ!? なんだこれスゲェうめぇ?!」「ただの肉の塊のくせしてうんめぇぞ!?」

「すげぇ! すげぇよ!? これどうやって作ったんだよぉ!?」「うぉおお……うんめぇ……俺、今なら死んでもいい……! こんなうめぇ物食えたんだからよぉ……!」


 口々に「おいしい」と言っていた。


「うぇっへへへへ……!」

 

 その様子を見ながらパセリさんは笑っていた。


「パセリさん……」

「見ろよぉ、腹ペコ坊主。みんな俺の料理を食って『うめぇ』と言ってるぜぇ……うぇっへへへ……ああ、チクショウ……嬉しいなぁ……嬉しいぜぇ……うぇへへへへへ……」


 笑いながらパセリさんは涙を流していた。


「パセリさん……?」

「俺はなぁ、坊主。前にでっけぇ国で料理人として腕ェ振るってたんだよぉ。でもよ、前にいた国が飢饉で立ちいかなくなってなぁ……国はなくなっちまったぁ……もう、家族とも離れ離れさぁ……」


 「料理で生計が建てられねぇと思ってたのに、俺は冒険者として《料理人》で腕ェるってたァ」と、舌っ足らずに言った。振るってたって言いたかったんだろう。


「でもそれでもよぉ、どこか物足りねェ。満足できねェ自分がいたんだよぉ。そこでもらったのがあの本でよぉ。レシピが書いてあるって言ってたのに、俺にはちんぷんかんぷんでよぉ……あんがとなぁ、坊主ぅ。あんがとなぁ……!」


 涙ぐみながらパセリさんは手を握って感謝していた。

 しわくちゃでがさがさの手が、僕の手を握ってくれていたことに、僕は心が温かくなっていた。

 皆が『肉のカラアゲ』を食べ続けていると、追加の注文が来た。ギルドの食堂の調味料を全部使いかねない勢いでパセリさんは作るつもりだ、と言ってそこから離れた。

 僕はそれを見送っていると、ギルドのドアが乱暴に開かれた音が聞こえた。

●用語解説

《肉のカラアゲ》

 古代文明に伝わる伝説の職業、《主婦》を助けるレシピ。からっと油で揚げて頂く。隠し味はお酒。

《ショウユ》

 ジパングからの輸出調味料。マメを原料にした黒い液体。美味。だけど辛い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ