「ですよねー」
「えーっと、情報を整理しますね」
既に日もくれて夕方になった頃、僕とルジェさんはある目的地へ向かっていた。
「盗み方の手口ですけど、どうやら相手が野菜を盗んでいた方法は『魔術を使っていた』らしいです」
どういうことかわからないけど、村の人が言うには夜中見張っていたところ、『強い紫色の光』が出てきた、と思ったら次の瞬間には野菜が消えていた。サングラスや目を凝らしてみていると『奇妙な紋様』が浮かび上がって、『その中に野菜が消えていった』らしい。
「魔術ねぇ」
「でもこの魔術、ナナシェさんが言うには《時計塔》ってところに行っていなくても学べる魔術だそうです。……ところでルジェさん、時計塔ってなんです?」
「知らね」
「ですよねー」
そりゃそうだ。
それこそナナシェさんに聞くべきだったけど、時間が惜しかったので聞けなかった。
「っとと、次なんですけど……盗んでいた時間はまちまちでした」
「そりゃ魔術を使っていたから、盗める時にはいつでも盗めたんだろ?」
「そうなんですけど……ここで一つ妙なことが浮かび上がったんです」
「妙なことぉ?」
ルジェさんが素っ頓狂な声をあげていた。
「はい。さっき『強い紫色の光』が出てきて、そして『奇妙な紋様』が出てきて、その中に野菜が消えた、って言いましたよね? でもいくつかの人の話では光も紋様も見ていないって人もいたんです」
「なるほど。つまり実行犯は二人いるかもしれねぇってわけだ」
そう。
『強い紫色の光』、『奇妙な紋様』、そして『その中に野菜が消える』。
ここまでくればもう犯人は《魔法使い》しかいないと思う。
だけどそれを見ていない人がいるっていうのがどうにもおかしい。そこで僕は『犯人は二人いるのではないだろうか』と思った。
「はい。何度も何度も《魔術》を使って盗んでいたらバレるなり身元がわかるなり、ひょっとしたら魔術避けの印を彫られて魔術が使えない、なんてこともあるってランさんが言ってました」
曰く、
『魔術避けだたら流れの《魔法使い》にでも彫ってもらうなり、魔術書読みながら彫ればバ格安ですむヨ。それ彫ればアッチューまに魔法が使えなくなるネ』
ということ。
「んじゃあ全部に魔術避けを彫ればいいじゃねぇか。それで何も起きねぇだろ?」
「いや、見て回ったんですけど教えてもらった魔術避けと比べたら、いくつか彫ってる箇所が違ってたり、彫り方を間違えていたところが多かったです」
「……なるほど。そりゃあ忍び込まれるわな」
どこか呆れた様子でルジェさんは言った。
「それに魔術避けをしていたところにも被害がありました。多分相手は――」
「十中八九、《職業》、しかも盗む事に特化したのつったら、《盗賊》しかいねぇだろうな」
《盗賊》。
《冒険者》が就ける職業の中でも盗む事に特化した《技》を持っている職業とのこと。
この人達であれば開けられない鍵はないし、熟練の《盗賊》は魔法の鍵もすんなりと開けるらしい。
「はい。そしてこの辺りでそんな怪しいのが潜む場所を聞いてみたら……」
「ここだった、っつーわけか」
僕らの目の前にはボロボロに風化した大きな城。
壁にはツタや雑草が茂っていて、気味が悪いところだった。
「『トレキアラム城跡』。元々は隠居した王様のお城だったらしいですけど、現在は使われてなくてそのまま放置されてるみたいですね」
「泥棒が潜むにゃもってこい、ってわけだ」
ぎゃあぎゃあとカラスが鳴く。ルジェさんが短く息を吐いて城門を押す。
蝶番が軋む音が辺りに大きく響く。
「行くぞ。時間がねぇ」
「はいっ」
だけど僕たちは思ってもいなかった。
ここにいるのは『野菜泥棒』の真犯人だけじゃないって事を……。
●用語解説
・《盗賊》
冒険者の職業の一つ。
対象からアイテムを盗むことに特化している職業で、熟練の盗賊は魔法で閉じられた鍵も難なく開けられる。
ただしよく冒険者から道を外れ、他の冒険者を襲う盗賊が多い。
・トレキアラム城跡
ウォンタリア領にある古びた城。昼間は何もない古い城跡だが、夜になるとアンデッド系の魔物が多く出現する。