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ぼうけんの司書  作者: 嫁葉羽華流
共国歴185年 白羊の月18日 曇り ウォンタリア領 トレキアラム城跡を後にして。
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「ポプルパン……どんなパンなんだろー……!」

大変遅くなりました。第二部目を開始していきます。

共国歴185年 白羊の月18日 曇り ウォンタリア領 トレキアラム城跡を後にして。



「る、ルジェさん、大丈夫ですか?」


 隣で肩を抱えて震えているルジェさんを支えながら僕は言った。


「だ、大丈夫なわけねーだろ……」

「す、すみません……」


 少しの間二人とも黙っている。

 ぼろぼろのカーテンや蜘蛛の巣がはられている割れた窓。埃っぽい室内で月の明かりもぼんやりとしかはいらない。ここなら多分見つからないはず。


「ナナシェさんたち、大丈夫かな……」

「あ、あいつらなら、だ、大丈夫、だろ。ここここんなところでやられる奴らじゃないさ」

「……その割にはルジェさん震えてますよね」

「うううううるせぇ! しゃーねぇだろが! こえーもんはこえーんだよ!」

「す、すみません!」


 と、なだめていると急に生暖かい風が吹いてきた。


「うっ!?」

「これは……」


 すぐにルジェさんは僕の後ろに隠れる。

 いつもの彼女とは思えない行動……なんだけど、これはまぁうん、仕方ない、のかなぁ……。


「ルジェさん……」

「だ、だだだだ大丈夫……せ、背中のやつはま、まままままかせろ……」

「流れ弾がこっちに来ないようにしないようにしてくださいね……」


 あきれながらルジェさんに言う。僕もナイフを抜いた。

 そして周りからすぅっ、と青白い光が出てくる。


『うふふふ……』『ひぇっひぇっひぇっひぇっ……』


 気味の悪い笑い方をしながら、青白い光は半透明の姿に変わっていく。ナナシェさんが言っていた『レイス』という魔物だ。

 レイスは……たしか、道半ばで倒れた人間の霊、だったような……詳しくはまたナナシェさんに教わろう。

 覚悟を決めてナイフを正眼に構える。物理がだめでも少しは効くはず。

 だけど一番に心配なのは……。


「あ、あ、あ、あ、あ……!」

「る、ルジェさん……?」


 これは来るかなぁ……と思った僕は耳を塞ぐ。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああす!!!」


 ここはウォンタリア領メレンゲ村近くの古びたお城、トレキアラム城跡。

 ――普通の城跡とちょっと違うところは、『お化けが住み着いたお城』ってことカナー。


※――――


 事の発端は、僕らがメレンゲ村に来たことから始まる。

 

「わぁあ~~……!!」

 

 御者台から眺める風景は、一面が緑に覆われていた土地。

 よく見るとそれらは何かの植物の葉っぱだった。

 あちらこちらで麦わら帽子をかぶった人たちが農作業に精を出している。


「メレンゲ村はウォンタリア領の中で一番トモロコシを作っているからな。それ以外にもレタス、キュカンバ、トマトなども作っているし、若トモロコシも生産されている」


 僕こと|《司書ライブラリアン》ライブが見ていると御者を務めていた|《魔法使い(マジシャン)》ナナシェさんが怖い顔で説明してくれた。

 怖い顔は普通の表情なんだけど、そこまで悪い人ではない。本の扱いは雑だけども。


「若トモロコシ?」

「パンの原料になるものだ。それを小麦粉の代わりにして水などを入れ込んで捏ねて伸ばして……まぁ、俺も詳しくは知らん。だがそうやってできたパンは『ポプルパン』として知られている。このメレンゲ村の名産品とも言えるだろう」

「へぇ……!」


 僕は目を輝かせながらナナシェさんの説明を聞いていた。


「ポプルパン……どんなパンなんだろー……!」

「何度か食べたことはあるが、普通のパンより少し甘い感じだな……焼いて塩を振ったらポプルコンに近い味になった」

「へぇ!」

「っつーか腹が減るような話題をださねーでくれよぉ。朝から何も食ってねぇんだぞこっちはー」


 馬車の中からシスター服を着ている《銃士ガンナー》ルジェさんが恨みがましい声で言った。

 今朝ルジェさんは寝坊をしてしまい、朝ごはんを食いはぐれてしまっていたのだ。

 おかげで髪はぼさぼさ、顔も洗っていないらしく、すこし不機嫌だ。

 服がよれよれなのは……うん、丁寧に畳んでいないからだと思う。


「ルジェちーが寝坊したのが悪いよー。今回は」

「うるせぇ早起きおっぱいお化け。アタシは朝によわいんだよ」

「朝じゃなくても弱いでしょールジェちーは」


 とルジェさんと軽い言い合いをしているのは《忍者シノビ》のユズさん。

 どこかつかめないところがあって、なおかつその、なんというか……一部分がすごく大きい。目に毒です。

 前にとある事件で知り合って、彼女から本の修復の依頼を受けている。それが完了するまで僕らと一緒について行くことになった。

 会った時には肌色が多く出ていて、なんというかアレな衣装だったのだけれど、今はワフクと言う衣服を着ている。うん、よかった。普通に直視できる服があって。 

 

「っつかなんだよその『ルジェちー』ってのは。ちゃんとかならわかっけどよぉ」

「? だからルジェちーだけど?」

「いや、だからよ……」


 とルジェさんが言おうとした時、


「ハイハイ。ケンカはアトにするヨー。それにソロソロお昼だし、村の宿屋でご飯を食べるネー」


 帳簿をつけているのは|《探偵》(ディテクティブ)のランさん。こちらはいつもと同じくきわどいスリットがついた服だ。

 足が見えるからその、なんというか……すごく、アレです。

 《探偵》という割には武術なんかも使えるし、いろんなことを知っている。

 ほかの人がお金で困らないように、帳簿もつけているそうだ。さっき僕もお小遣いをもらった。


「おお! メシか! よし行こうすぐ行こうぜ!」

「んーでも小腹が空いたのも事実だしなぁ。私もたべたーい」

「そろそろ入口につくし、早々に宿屋を探していくとしよう」


 ゴトゴトと馬車は地面をゆっくりと進んでいく。村の入り口が見えた。


『ようこそ、メレンゲ村へ!』


●用語解説

・トモロコシ

メレンゲ村で採れる穀物。黄色い種子が無数についており、食べると甘い。

焼いて塩を降った『焼きトモロコシ』はカンタンでお手軽にできる料理として有名。何故か食べるとお腹がゆるゆるになるらしい。

・キュカンバ

緑色の細い植物。みずみずしくサラダなどに重宝される。塩をふりかけると美味とか。何故か食べるとお腹がゆるゆるになるらしい。

・メレンゲ村

ウォンタリア領にある農村。城下ほどではないが規模は大きい。

また、ポプルコンの栽培がさかんである。


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