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ぼうけんの司書  作者: 嫁葉羽華流
共国歴185年 白羊の月12日。晴れ。ウォンタリア領スウェトニアにて。
20/29

「よろしくお願いします!」

 そうして僕とユズさんは国外まで馬車で送られて、それから降ろされた。『国外に出るにあたっての荷物』として食糧とちょっとした荷物、それと僕は『本』を貰った。

 赤黒い表紙の、紐栞がついた本。

 王様が言うには『誰も読むことができないし、それは君が持っていたものだ。君に返すよ』と言っていた。

 ……あの水の夢で見た本だった。


「さーてとっ。それじゃ……はい」


 といってユズさんは手を出した。


「え?」

「本。返して」

「あ、はい……」


 そうだった。

 ユズさんから預けられた本があるんだったっけ……。

 僕は渡された手荷物から本を出そうとした。が、


「あ、あれ……」

「どうしたの?」

「い、いやこれ……あーっ!」

「どうし……いやぁあああっ!?」


 なんと、ユズさんから預けられた本は、見るも無残なズタボロの状態だった。

 背表紙はひしゃげ、表紙はぐちゃぐちゃ、さらに本の中身までジャリや小石がはさみこまれてがたがたになっていた。


「ど、どうして……なんで……」

「ご、ごごごごごごごごめんなさい! きちんと修理しますから!」

「あたりまえじゃない! こんなのを持っていったら私殺されるわよぉ!」


 「あーもう!」といってユズさんはびっ、と僕に指差した。


「ライブ君。責任とってその本を修理してね!」

「はい……で、でも修理する道具がないと……」

「……そういえば私たち、無一文だったっけ」


 王様から渡されたものは食糧と自分の最低限の荷物。

 僕は『本』だけ、ユズさんはいろいろ持っているけど、修理に使えそうな道具は何一つ見当たらない。


「……絶対に修理してもらうんだから……それまでずっとついて行くわよ!」

「え!?」


 ユズさんはそういうと僕の手を取って言った。


「いい!? ぜーったいに修理してね!? やっと見つけたんだからそれ!」

「は、はい! ……でも、これからどうしましょうか」


 見渡す限り緑の草と、踏み固められた道。

 近くにあるのは「ウォンタリア」に続く道と、「メレンゲ」という村につながる道。


「どうするのよぉ。ここから先、私はぜんっぜん道なんて知らないわよ!?」

「僕もです……」


 僕らは、途方に暮れていた。

 するとごとごとと何か音がする。

 音のする方を見ると、それは馬車だった。

 手綱を持っているのは……


「ナナシェ、さん?」


 馬車は僕らの前で止まる。


「やれやれ。こんなところまでいたのか。探したぞ」

「ど、どうしたんですか? 一体」

「まったく……王様が『その褒賞は馬車を買うために使うといい。道で困っている者を拾い上げるためにも』などと思わせぶりなことを言うものだからな。それに――」

「あたしが買うのを強く勧めたからな!」


 といってルジェさんが馬車から躍り出てきた。


「る、ルジェさ――ぐえっ」

 

 僕はルジェさんに首を締められた。


「それもアルけど、ほんとは王様からもう一個『お願い』をされたのよネー」

「ランさん!?」


 馬車からひょっこりと顔をのぞかせたランさんを見て、僕はまた驚いた。


「ど、どういう事ですか……!?」

「ウォンタリア王直々だ。これをお前に渡すようにとな」


 そう言って渡されたのは栞だった。

 何かの花が印字された凝ったデザインの栞。


「これは……」

「ウォンタリア国の国印が彫られた栞だ。それさえあればほとんどの国で身分審査などを免除されるそうだ」

「身分審査……!? それに、こ、国印って……!」

「曰く『英雄としての褒賞』だそうだ」

「ぼ、僕そんなの覚えていないんだけど!?」

「……謙遜を言うなよ」


 ナナシェさんはそういうと「さて」とひと置きして、向き直った。

 ランさんも馬車から降りる。

 ルジェさんが僕に向き直って、手をだした。


「さって、改めて王様からの『お願い』を言うか。……ライブ。あたしらと一緒に来い」

「……え」


 風がざぁっ、と吹いた。

 髪が揺れて、栞がたなびいた。


「あたしらが一緒にいれば、お前の身の安全も保障されるし、なにより他国に行く都合がいいだろ? 《冒険者》ってのはよ」

「人と馬車がアイテルし、それにこんな大きいの、私たちだけじゃ使えないネー」

「え、えっと……」


 僕は震えた。

 そして、考えた。

 でも……それもすぐに終わった。

 この人たちとなら、とっても楽しくなりそうだったし、それに――


――あの子に会えるかもしれない。


 そう思ったから。

 僕は言ったんだ。


「よろしくお願いします!」


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