「実は僕、誰かもわからないんです」
「……んぇ?」
妙な声を上げて目を開ける。眩しい――。
見上げるとそこには木の枝と青々しい葉っぱが、ちょうどいい日傘になっていた。
「って、ここどこ!?」
僕は身をあげる。
空には青空とちょこちょことと小さな雲がある。
そうだよ、ここどこなの?! たしかさっき僕は城から飛び降りて、そのまま水の中に落ちて……!
あっ、でも生きているんだから、ここって外!? イヤッホウ! 自由の身だ!
って、考えていると、「お?」と声がした。
「目ェ覚めたか。怪我もないみてーだし、無事でなによりってやつだな」
と右から声がする。
振り向くとそこには金髪の修道女がうんうん、と頷いていた。
その人は袖口がとても広く、またきている服もどこかひとサイズ上のものを着ている。
「アイヤー。だから言ったよルジェー。このオトコノコいきてるテー」
逆の方にはやたらとスリットが長い袖のない服を着ていた女の人が座っていた。
若干こっちから下着が見えそうで見えない感じが妙に色っぽい。
「ルジェ、ラン、そこをどけ。今からこいつに触診する」
といって近づいてきたのは黒いローブを来た目つきの悪いメガネの男だった。
むっつり、というか不機嫌な表情をしながら、「吐き気はないか?」とか「どこか痛むところは?」とか聞いてくる。
「ふむ……体に異常はないな。強いて言うなら先ほどまで水に濡れていたからか体温が下がっている程度か……」
「無事ってことだな! よかったよかった!」
うんうん、とルジェと呼ばれた人は頷く。
「さってと……アタシはルジェ・トリー。冒険者だ。ちょいとした依頼でこの先にある城に用がある。……アンタ、何か知らないか?」
「城? 冒険者……・」
僕が首をかしげているとルジェさんはキョトン、とする。
「なんだお前、冒険者をしらねーのか? っつーと……」
「ジパングからの脱国者やこのあたりの村の住人の可能性が高いな……ラン、どうだ?」
「んー?」
黒いローブの人物が冷静にきわどいスリットの人物に声をかける。
「んー、嘘はイテナイネ。このオニーサン。むしろ混乱してる思うヨ」
「嘘はついていない……?」
黒ローブの人物はまたふむ、と考え始めた。
……って、え?
「い、今……なんで考えていることがわかったんですか?」
僕はなにも言ってない。
ただ、頭の中で考えてただけなのに……!
「クホホ。そりゃーオニーサン、企業秘密ネ」
「どうせ【心理学】で考えを読んだんだろ。ひきょうくせー」
「クホホ。さて、どうだかネ」
ルジェさんは苦々しい顔で言っていた。
え? 【心理学】?
「い、いったいなんなんですか、あなたたちは……?」
僕が震えながら言うと、ルジェさんはニカッ、とシニカルに笑った。
「言ったろ。アタシ等は冒険者だ。こいつが使ったのはそのスキル……まぁ、《技》ってやつだよ」
「わ、《技》……」
「ソウヨー。こう見えてワタシ、《探偵》だからネ。オニーサンもワタシに隠し事デキナイヨー?」
ランさんはまた「クホホ」と笑う。
うう、その笑い方がどことなく怖いのは気のせいだろうか。
「ん? 今この笑い方怖いオモタカ? 失礼なオニーサンネ」
「あわわわ……」
ランさんはまた「クホホ」と笑う。うう。この人考えてることをスパッと当ててくる……!
「ま、イイヨ。この笑い方クセだし。怖い思われるのも慣れたヨ」
「す、すみません……」
「話は終わったか?」
黒ローブの人が話に入ってくる。
「なんだよナナシェ。お前も話に加わりたいのかァ?」
「やっぱり男は女々しいネ。寂しいなら寂しい、言えばいいのにネ。クホホホホ」
「…………」
ナナシェ、と呼ばれた人は頭を抱えている。あ、今のはなんとなく考えがわかった。「違う、そうじゃない」って思ったんだろうな。
「……まぁいい。とりあえず、君の名前は?」
「えっ、と……ライブって呼ばれてました」
「俺はナナシェ・クアットロ。ライブ。君は今朝、俺たちが発見した時にこの川を流れていた。そこをルジェが釣りをしていて見つけたんだ。君はこの近くの村の住人か?」
淡々と話すナナシェさん。
僕はだまって首を左右に振る。
「では、君はジパングからの脱国者か?」
これも首を左右に振る。
そもそもジパング、という国を知らない。
「ふむ……ではライブ、君はいったいなんだ?」
ナナシェさんがそう聞いて、僕は数秒迷って言った。
「実は僕。誰かわからないんです」
用語解説
○《冒険者》
世界を旅する人物の略称。
国から一歩出れば魔物や山賊など、無法地帯である。
その生き残るすべを持っているのが冒険者である。
彼らは《職業》の力を使って生計を立て、別の国へと旅をする。
その目的はそれぞれだ。
ある者は金銀財宝を手にいれるため。
ある者は最強を手にいれるため。
またある者は世界を救うため。
冒険者にはそれぞれの目的があるのだ。
○《ジパング》
世界の東の果てにあるとされている島国。
ジパングの人物は手先が器用で、織物や精密な部品を用いた複雑なカラクリを作るのが得意。
名産はこのジパングでとれる「ワガシ」というすっきりとしたあまーいお菓子。
だが今このジパングに入るのは難しい。
何せ現在、時のトノサマ(我々のいう国王)が国へ入るルートを閉鎖してしまったためである。
だが入国する手段がないわけではない。
「ガナキサ」の港へ行けば異人としてもてなしてくれるだろう。
もっとも、トノサマの行列など、礼を欠いたことをすればその場で斬りあいになるかもしれない。
おすすめは「ゲイシャ」「ハラキリ」「スキヤキ」「ニンジャゴロシ」。
○《職業》
冒険者がついている職業を指す。
特殊な技、《スキル》を発動させることができる。冒険者にはそれぞれ職業についている。何も職業についていない場合には《すっぴん》の職業があてがわれる。
まず一番最初に《通常職業》から始まり、さらにその上へ行くための《専門職業》、さらに《専門職業》の中でも特異な《隠し職業》があると、冒険者の中では伝えられている。
○《スキル》
冒険者が発動できる特殊な技。超人的な能力が多い。
スキルにはレベルが存在しており、一部を除いてほぼすべてのレベルの上限は10となっている。




