「僕に、立ち上がる力を貸して――!」
僕は、水の中にいた。
こぽこぽと口から泡が出てくる。
――ああ、そうか。
ふよふよと漂う水の中で、僕は分かった。
――僕は、死んだのか。
そして理解したときに、僕は、とても後悔した。
ユズさんに本を返してなかったとか。
ナナシェさんに怒られるだろうなぁとか。
そして何より後悔したのは、
本をみんな、守れなかった。
――なんで、本を守れなかった、なんて思ったんだろう。
漂いながら、僕はふと思った。
ああ、僕は本が好きだ。
読んでいて楽しかったし、面白かったし、なにより読んだ時に喜んだ顔を見れたのはうれしかった。
――そういえば、パセリさん大丈夫かなぁ。
僕が連れ去られるときに斬られていたような。
でもそんなのももう関係ないだろう。
ああ、僕は……もうすぐ死、
『死なないよ』
誰かが言った。
優しい、風のような、つぶやくような声だ。
――誰?
『死なないよ。君は。死なせない』
――誰なの?
『君は。『王様』に。なれる人物だから。死んだら。だめ』
――『王様』? 何? なんなの?
僕が声に質問をする。
声は形になって、僕の前に現れた。
女の子だ。
僕と同じくらい。黒の服、黒の目、それを全てはっきりさせるような白い肌。
ぼやけてはいたけれども、服はとても豪華なものだと感じた。
『君が。私を。助けてくれる人だと。私は。思うから』
――『王様』って何? 君はだれ?
『『書物の王』に。君はなれるから』
そういうと、女の子は僕に向かって本を投げた。
赤黒い表紙の、紐しおりがついた本。
『それは。『封の書』。役割は。事象を『本に封じる』こと』
――『封の書』?
『全ての始まり。全ての終わり。――『0』の本』
――『0』の本?
『――探して。『王様』』
――まって、まだ、まだ聞きたいことが……。
※――――
「まだ、聞きたいことが……!」
と、僕が目を覚ますと、ガレキの中に僕はいた。
「がほっ、げ、ほっ……! お、重い……!」
狭く、苦しい中で僕が息をする。
外では銃や剣が合わさる音がする。
ずしん、ずしんと地響きもする。
「あ、あ……」
そうだった。
ここはスウェトニアの領地で、アカームが……
「あ、カー、む……!」
少し首を回すと見えるのは、背表紙が傷ついた本。
痛ましそうにどれもが転がっていた。
「なんて……こと、を……!」
歯を食いしばった。
奥歯をわれんばかりにかみしめる。
痛ましい姿の『彼ら』をみて、僕はいたたまれなくなった。
「ごめんね、ごめんね……! 後で、治してあげるから……! だからお願い、」
少しでいいから。
「僕に、立ち上がる力を貸して――!」
●用語解説
『封の書』
詳細は伏す