「ど、どこから来たんですか!?」
遅くなりましたァァァ
「あーもう! ここから出しなさいよぉ!」
僕がどうなってしまうのか途方に暮れていると、隣から女の人の声がきこえてきた。だいぶ若い声だ。
「このっ! 暴れるなコソ泥が!」
「いったーいっ! 殴ったわね!? かよわい女の子を殴ったわね!」
なんだか言い合っていたようだけど、看守が無理やり女の人を押し込んだらしい。すぐに鍵が閉められた。
「あっちょっとー!? ねぇ、出しなさいってばー!! おーい! 聞いてるのー!?」
しばらくその人は看守に叫んだが、聞く耳を持たないのか、そのまま去ってしまった。
「ちぇー捕まっちゃったー……でもまぁいっかぁ。何とかなるでしょ」
「すごく……なんというか、前向きに考えますね……」
「ん?」と声がした。どうやら僕がいることに気付かなかったらしい。
「あれ? ひょっとして先に人がいたの? やっほー、元気ー?」
「生憎元気じゃないです……」
「元気ないなぁ。きちんと朝ごはん食べてるー?」
「……そういえば最後に食べたの、カラアゲだけだったなぁ」
「え? 何々、おいしい話?」
「ええ、まぁ……っていうか、すごく元気ですね」
明るい声が牢屋に響く。正直、僕の声よりもずっと大きい。
「まぁねー。ていうか、カラアゲってなに? 料理?」
「えっと、お肉を油で揚げたやつなんですけど……甘くて」
「ふんふん」
「ちょっと辛くて」
「ふんふん」
「かみしめると肉汁がじゅわーっと出てきて、とってもおいしいです」
「なにそれすごくおいしそう!」
「うわぁ!?」
気づけば女の人は壁に穴をあけて僕の所へ来ていた。
栗色の髪を短く切ったその女の人は、かわいらしい小顔の、幼い感じが目立っていた。
そしてとても特徴的な服を着ていた。
袖のない服の下に細かく編まれた鎖を着こんでいる。手には皮か何かでできた手甲。
そして胸がとても大きい。
思わず目がそちらに行ってしまいそうだったが、何とかこらえた。
「ど、どこから来たんですか!?」
「? どこって、壁を壊してきたんだよ?」
「へ?」
女の人が壊してきた壁を見てみるとなるほど、大きな穴がぽっこりと空いている。
見ると女の人は手に鋭く平べったいナイフのようなものを持っていた。
「いやぁ折角だし、壁抜けで行こうと思ったら、面白そうな声がきこえたからね。ちょっと来てみた!」
「ちょ、ちょっとって……」
「あ、ちなみに私は『ユズ』って言うの。君の名前は?」
「え、あ、ら、ライブって呼ばれてます。……じゃなくって!」
「ライブくんかぁ。君この城の人? なんだかお手伝いさんみたいな人だけど、あ、でもこのお城お手伝いさんいないっぽいしなぁ~」
「……もういいです」
なんというか、この人と話すとペースが乱れる。妙に疲れる。
「それでその、ユズさんはここに何しに来たんですか?」
「え? 私? 私はね、ここにある本を取り返しに来たのよ」
といって胸の谷間からごそごそと本を取り出した。
「って、ど、どこからとってるんですか!?」
「? どこって……ああ、ごめんごめん、そういうの耐性ない方だった?」
「じゃなくって! どうしてそんなところに……!」
「だってここじゃないと看守の人に没収されちゃうんだもーん」
口をとがらせて抗議をするユズさん。
「そ、それで、その本って?」
「話題変えたね~」
「いいから!」
「はいはい。……まぁこれなんだけど、私の故郷で出された、ヒ……じゃない、│御太陽様が作られた預言書なのよ」
「預言書?」
「そ。ずいぶん前にね。でも火事で蔵が焼けちゃったときに紛失しちゃって……まさかこんなところにあるなんて思ってもなかったわねぇ」
厳しい顔をしながらユズさんはうんうんと唸っていた。
「さってと。それじゃ私は出るけど、君どうするの?」
「ど、どうするって……?」
「んー。とりあえずここであったのも何かの縁だし、助けるかどうか迷っちゃってね~」
助ける。
その言葉を聞いて、ちょっとドキッとした。
ここから、逃げられるのかな?
「で、でも……」
「どうする? ここから逃げる? だったら逃がしてあげるけど?」
「…………」
ここから逃げたら、腕がなくなるかもしれない。
……でも、
「……お願いします」
「分かった! じゃ、ちょっと待っててねー」
といってユズさんは床を見て「この辺かな」とあたりをつけたと思ったら、
「――ハッ!」
声を出して、さらに床を踏みつける。
するとぼこり、と円形に穴が開いた。
「よし、できたぁっと」
「……ユズさんいったい何者なんですか……?」
「気にしない気にしない。ほら、早く早くっ。逃げないと捕まっちゃうよ?」
そういってユズさんは先に降りてしまった。
後に続くように僕もそこから出ていく。
こうして僕は二度目の牢破りをしたのだった。
●場面解説
といって胸の谷間からごそごそと本を取り出した。
所謂少年誌的なお色気シーンです。
ライブは耐性がない模様。そりゃあそうだ。