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双子ニート、自転車を買う。


午後一時四十分、起床。



いつも通りキッチンの換気扇をつけて煙草に火をやる透。スマートフォンでメールをしたところメルマガ広告しか届いていなかった。

チラリと悟の寝室を覗くと、ベッドの中でスマートフォンをいじっていた。透は慣れた手つきで煙草の火を消しリビングへ向かう。


このタイミングで悟はベッドから抜け出し、リビングへと足を運び一言。



「…今日の予定は?」


透の答えは決まっている。


「…特に無い」



今日も彼等の一日が始まる。




…………………



「てかさ、自転車欲しくね?」


テレビの前でリモコンを弄りながら、唐突に透が言った。熱心に見ているわけでもない午後の情報番組は、暇潰し程度にはなる。


「んじゃ買いに行くか。どうせ市役所にも行かなきゃならんし」


悟はテレビに目もくれず漫画を読みながら言った。

彼らは最近引っ越しをしたばかりで、住所変更などの手続きを済ませていなかった。家の中には未だにダンボールが散乱しているにもかかわらず、片付けは行っていないのだ。


「十分後に出発な」


「うむ」


「ついでに自転車屋があったら買えばいいべ」


「うむ」


簡潔なやり取りをした後に、もそもそと寝間着を脱いでいく。服に着替えて身だしなみを整えるため洗面所へ。二人して鏡の前で突っ立ってどちらが先に顔を洗うかで言い争いを始める。結果じゃんけんで悟が勝ったため、先に洗うことになった。

そんなどうでもいい事で揉めながら、準備は整いようやく家を出る。


「忘れもんねーかー」


「んー」


「というか市役所何処だー」


「んー」


「とりあえず行くかー」


「んー」


悟の抜けた返事をスルーしながら、スマートフォンで市役所の場所を確認して先導する透。どうやら歩いて行ける距離らしい。


「あー、我この前行ったお」


スマートフォン片手に悟が言った。


「ならおまい先行けお」


半ば呆れながら透は悟の後に続いて歩きだす。それだったら最初から言えよ、と心の中で思うのであった。

ところでこの二人、リアル会話でも2ch用語なるものを使っているほどの変人で、二人っきりの時でのみ使用しているみたいだ。まさかリアルでこんな用語使う奴は他にいないだろう、というか気持ち悪い。





そんなこんなで市役所に向かって歩くこと十五分、二人は目の前の交差点右向かいにサイクルショップを見つけた。割とこの地区ではメジャーな店らしい。店内は平日の午後にもかかわらず親子連れやお年寄りの方々が数多くの自転車を前に吟味している。


「折りたたみ自転車欲しいお」


店内を徘徊しながら透がつぶやく。…おそらくその時の顔は(^ω^)こんな感じであっただろう。


「それなら二階にあるお」


悟が指差した先の二階へと続く階段の壁には、置いてある自転車の種類が書いてあった。確かにお目当てのものは二階にあるみたいだ。

階段を登り折りたたみ自転車が置いてあるコーナーへと足を運ぶ二人。何十種類もある中で、二人は同じものを指差す。


「これがいい」

「これにする」


ほぼ同時に声が重なる。しかも同じ車種で色違いのものを指差していた。透が白で悟が黒。双子とは物の好みまで一緒なのか、はたまた何かテレパシー的なものを発しているのではないか。わからない。

悟が他にも一応見て回ろうと提案したが、最終的に一番始めに選んだ折りたたみ自転車に決まった。


購入手続きなどを済ませ店員からの説明を受けている時に、近くにいた親子連れが苦笑を浮かべながらジロジロと二人を見ていた。

そりゃそうだわな、と二人は思った。なにせ、同じ顔した奴が同じ車種の色違いを買ったんだから。どれだけ仲良いんだって話だ。

正直二人はあまり気していない。昔からそうだ、お揃いやら色違いやらはもう慣れているし、むしろ最近ではその方が楽なのでは無いかと思っていた。何が楽かって、選ぶ手間が省けるのが一番だろう。


「ありがとうございました」


店員に見送られて、二人は新品の自転車に跨がる。二人にとって自転車に乗るのは高校卒業以来だった。


「あの頃を思い出すな」


透は遠い目をしながら自転車のギアを無意味にガチャガチャと回す。


「もう六年近く経つのか…、早いもんだな」


折りたたみ自転車は小回りがきくため、悟はその場をぐるぐる回りながらそんな事を言った。


「そんじゃまあ、行きますかね」


「うむ」


言って同時に走り出す。ペダルを漕ぐ足は思いのほか軽い。これなら市役所までそんなに時間はかからないだろう。






<今日の収穫:折りたたみ自転車>





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