052
遠くから聞こえてくる。
眠たいわけでもないのに、体が動かない。麻痺とも違う。肉体と意識が分離していた。
「京也。しっかりしろ」
誰かの声がした。魂が器に戻り。京也の目がゆっくりと開いた。
「大丈夫か」
楓が心配そうに京也を見つめていた。
「ええ」
京也の意識はもうろうとしていた。立ち上がる京也を楓が支える。
時を止めていた実感は、京也にはない。ただ、ライムタベラートが能力の限界を超え、全ての感覚がなくなったことだけは認識できた。
「圭介は?」
「楠木がここにいたのか」
ぼんやりとした意識のまま、京也は周囲を見渡したが圭介の姿はなかった。
「歩けるか」
楓の言葉にうなずく京也。
まだ遅れて言葉が伝達される気がする。ふたりは、城に向かった。
時計塔の針は、3時17分を指していた。
城の内部に人影はない。ふたりは、入口から続く大広間を抜け先に進んだ。すると金色のノブがついたひときわ大きな扉が目についた。
京也と楓は互いに無言の合図を送る。
楓が勢いよく扉を開けた。
部屋には、大理石でできた玉座があり。ひとりの男が座っていた。
「兄さん」
「おそかったな、京也」
「キングは?」
「目の前にいるだろう」
翔は、おどけて京也に答えた。
部屋には男がうつ伏せになっていた。その上に、圭介が重なるように倒れている。
「どういうことですか」
「鈍いな、俺がキングを倒した」
「圭介は。殺したんですか」
「仕方がなかった」
「どうして……」
京也が圭介に触れた。すでに息はなく。ライムタベラートで捕まえることができなかった友は、冷たくなってそこにいた。
「冗談はやめて下さい。先輩」
楓が翔の前に立った。
「楓ちゃん。冗談じゃない。後は隠れている死人を殺せば片が付く」
翔が視線を向けた。部屋の片隅に、ココロが震えている。
「子どもじゃないですか」
「関係ない。これで全て終わる」
「ココロは殺させない」
京也が素早く移動した。
「安心してココロ。君を守るから」
ココロの頭をそっとなでる。
「発動」
能力を使い、京也が逆走する。
中庭に戻るとココロに話かけた。
「ドラゴンを呼んで、ココロだけでも逃げられないか」
「ダメだよ、京也。ピー子はこの中には入れない」
京也は出口までのルートを検索した。しかし、能力が制限される。砂漠と同じ現象が京也を襲う。見えないガラスの壁が、瑠璃色の階段を屈折させ、先に伸ばすことができない。
「無駄だ」
「兄さん」
翔が姿を見せる。
「その子は、闇に帰らなければいけない」
「どうして」
「お前には理解できない」
「説明してくれ。兄さん」
「殺してから話してやるさ」
翔が左手をココロに向けた。
大きく開かれた指先に、力を込め握りしめてゆく。
「あああ」
ココロが胸を押さえ苦しみ始める。
「ココロ……」
助けようとする京也の体が固まった。翔が右手を広げ京也に突きつけていた。強烈な金縛りが、京也を支配する。言葉を発することができない京也に、ココロの悲痛な声が伝わってくる。
「やめて!!!」
楓のペンダントが金色に輝いていた。
幾千もの光の帯をまとい。能力に目覚めた楓が、ガラスの壁を砕き現れた。




