049
「痛いよ。京也」
「ごめん」
京也は抱きしめていた腕を振りほどく。
幼い瞳が京也をじっと見つめていた。
「ボクはいく」
ココロの指さす先に、京也がみた城壁がある。
「帰るならあっち」
ココロが別の方向を指す。京也が飛び込んだ扉が姿を現した。
「帰らないよ、ココロ」
圭介が心配だった。
京也はすでに引き返さない領域に、足を踏みいれていた。
「ココロはどうやって帰るんだ」
京也は突然現れたココロが、どうやって帰るのか心配になった。
「ピー子がいるからだいじょうぶ」
「ピー子?」
小鳥のような名前。
京也はペットか、何かかと思っていた。
「ピィーーーーー」
ココロが指笛を鳴らす。目の覚める音が砂漠にこだました。
京也は見回すが、砂漠に生き物はいなかった。
京也の足元が黒く覆われはじめる。雨でも降るのかと思い、上空を見上げる。翼を広げ、旋回しながら巨大な物体が降りてくるのが見える。
踏みつぶされる恐怖を感じ、京也は慌てて走り出した。しかし、数メートル走っただけで、吹き降ろされた風に体が浮かび前方に倒れ込んでしまった。
風が止む。京也が顔についた砂をどけると、そこにはドラゴンがいた。赤いトカゲのような体は15メートルほど、四つ足で埋もれた爪が動くたび波のように砂が揺れていた。
「ピー子。あいさつ」
「グゥーーーーーー」
腹に響く低い振動。ドラゴンは興奮気味に鼻を膨らませ、口がその都度広がり鋭い牙が見え隠れしている。
「ダメだよ。ピー子。食べ物じゃない。お腹をこわすよ」
ココロがなだめる。京也に関心を示すのをやめたドラゴンが、お辞儀をしてココロに顔をすりよせようとする。京也はココロが食べられやしないか不安になった。
頭部の異なる2本の角を、ココロが楽しそうになでてやる。ドラゴンが目を細めた。キュービックホールで、ぬいぐるみを離さなかったココロが京也の頭に浮かんだ。
ココロは尻尾から背びれを伝って、ドラゴンの背中を上っていく。首のつけねにある水晶型の椅子に、ココロが座り込むと、ドラゴンが首を突きだし両翼を広げた。
「京――――――也」
ココロが大声で叫んだ。
「ボクは京也を許さない。でも……お姉ちゃんの声を聴いた。だから殺さない」
上下に羽ばたかせた翼が、旋風を巻きお起こし砂を蹴散らす。ドラゴンが舞い上がる。飛ばされないため京也は砂にうつぶせになった。影が飛んでいく。
顔を上げ、砂塵を避けるため京也は瞬きを繰り返した。
「ありがとう。ココロ」
京也は思わず声にした。
ドラゴンのおかげで、ガラス瓶に覆われた牢獄は砕け散っていた。
京也の視界に、無限の階段が伸びていた。




