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誰よりも早く階段を上り僕は君に逢う  作者: T-99
三本の柱:赤~恋愛編
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 グラウンドには既に多くの生徒が集まっていた。三本の柱に囲まれ中央に位置するグラウンドを西に抜けると赤の柱に辿り着ける。柱の審判が行われる間は、すべての授業がストップし興味のあるなしにかかわらずイベントに生徒が巻き込まれてしまう。

 京也が入学してから恋愛の審判は2度おこなわれていた。審判の詳細は、当事者しかわからない仕組みになっていて、「ラブ指数」と呼ばれる相性度のみ伝えられる。ダメな場合は再度チャレンジしてもいいことになっているが前例はない。公の場で「No」の烙印を柱から押されてもなお果敢に挑む強者は、学園にいまだ現れていないようだ。ラブ指数がめでたく80パーセントを超えれば恋愛解除となり、専用回線「赤い糸」が柱の力で結ばれる。24時間いつでもどこでも料金無料のふたりだけの思念通話。念じて通じる距離は無制限、遮断できる力はなく異世界にさえ届くらしい。「異世界って、本当かよ?」パンフレットをめくり呟いた男子生徒の横を京也が通り過ぎた。

 準ミス姫野は学園でも有名だが、審判相手の男については誰も存在を知らない。誰それ? 能力なし。兄の七光り。友好的な言葉はなく、姫野のファンに見つかれば、固有結界とは別の暗い部屋に連れて行かれ、ねちねちと痛めつけられる危険性もあった。面がわれてないことは京也にとって幸せだったかもしれない。

「シュウーリ」と呼ばれる学生が運営する屋台が連なり、無料ドリンク券が配られるなかでやけに軽めのBGMが京也の耳に残る。今回に限っては、準ミス公認?のグッズもありと屋台の出店数も多い。当事者でなくても恋愛ごとは気になるもの、審判の結果とお祭りを楽しみたい生徒でグラウンドはにぎわいを見せていた。

「お前は何eエトワールかけた」

「俺は34パーセントに12eかけた」

 京也がぶつからないように歩く横で、恒例のパーセント当てゲームが行われている。生徒会主催の公認ゲームで、みごとラブ指数を的中させた者には「掛け金×1,000e」がもらえる。エトワールとは、学園の功績の証。学園に貢献するたびにeが貯まる仕組みになっている。貯まったeでいろいろな学園特典や優遇措置があり、細かな規定が学園憲章細則補足に明記されている。卒業までのeのポイント数で「殿堂」と呼ばれる学園の名誉会に入会することもできポイント集めに熱中している生徒も少なくない。ちなみに入学ポイントとして生徒全員に100eが与えられている。

「道をあけてくれ」

 楓がよく通る声を響かせた。赤の柱に一本の線がつながったように生徒が道を開けると、柱の円周上に張り巡らされていた立ち入り禁止の鎖が解かれているのが見える。赤の柱から伸びた長い影は、京也の体をすべて覆い尽くしていた。風紀委員の隣にいる京也の姿に、ようやく準ミスの審判相手の存在を生徒たちが認め騒ぎ始めた。注がれる視線と聞こえてくる驚きの言葉とで京也は足が竦んだ。

「胸をはれ滝本京也、柱はすぐそこだ」

 前を向くことができず、足元に視線を落す京也に楓が檄を飛ばす。

『京ちゃん、ファイト!』

 圭介の力で一足先にグラウンドに来ているはずのミミの声を感じた。京也は柱の影を見つめながら「外部から光も音も届かなかった結界に比べ、こっちの方がまだましだよな」と自然に思えてきた。

「よし、いこうか」

 顔を上げ力強く踏みだす京也の後に楓が続いた。

 


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