048
太陽をさえぎる城壁が黒い影を伸ばす。ぐるりと取り囲む巨大な壁。出入口の鉄の扉は、2箇所とも固く閉ざされていた。左門には深く彫りこまれた火を吐くドラゴン、両眼が門に立つ者を威嚇する。右門には天高く突き上げられた3本の剣、交わりからもれる光が、見上げる者に届きそうな勢いだった。ここから先は死人の世界。翔は楓にまわしていた手をほどいた。
「正面から入るんですか」
楓は上空から侵入せず、あえて扉の前に降り立った翔を見ていた。
「楓ちゃん。ペンダントをだして」
唐突な翔の問いかけだった。
「どうして」
胸のペンダントが、翔から京也への贈り物ともちろん知っていた。しかし、楓は聞き返さずにはいられなかった。
「いいから」
強引な翔に逆らうことができず、楓がペンダントを渡す。
「京也がなんと言ってこれを渡したか覚えているかい」
「能力を得るためのお守り」
翔が鼻で笑った。
「これは能力を制御するためのお守り」
翔の言葉に、楓は大きく目を見開いた。
「能力が目覚めないように、京也に持たせておいた」
翔は受け取ったペンダントをみつめていた。
「もっとも楓ちゃんには、ペンダントは関係ないけど」
「どういうこと」
「すでに能力を封印されている」
「能力なんてありません」
語尾を強くして否定する楓。
「そう思うのは無理ないけど。両親か、それに近い人が能力を封じ込めている。普通に育ってほしかったんだろう」
「嘘だ。父は……」
「未来の階段を上りきったのには意味がある」
「あれは京也の力で」
「違う。楓ちゃんは、羽化登仙て、言葉を知っているかい」
「え?」
楓は初めて耳にする言葉だった。
「能力を使えば、普通の生活には戻れなくなる。だから慎重に決断してほしい」
翔が、楓の首にペンダントをかける。透明だった石が黄金色に輝いていた。
「両親の思いを踏みにじるようで嫌だが、ペンダントの力を解放した。望めば楓ちゃんは能力者になれる」
翔は言葉を詰まらせる。「能力者が必ずしも幸せとは限らない。京也にも能力者になってほしくなかった」楓に対しても同じ気持ちだった。
翔が手をかざす。右門の3本の剣から伸びた光が、実物の光と変わる。翔のいる場所だけ、影が切り取られ明るく照らし出された。
「ここからは、俺ひとりでいく」
「先輩……」
「待っていれば、京也も来るはずだ」
『京也は先に扉をぬけたはず?』
「いや、俺たちの方が先についてしまった」
楓の心を読んだ翔が答える。
教えてほしいことがまだまだ楓にはたくさんあった。『一緒に……』楓が口に出す前に、翔がさえぎる。
「時間だ」
振り向き翔は、光の道を進んでいった。
切り取られていた影が、勢力を取り戻す。遠くから見ると、ペンダントが暗闇に浮かぶ星のように輝いていた。




