040
3秒後の世界。
周囲に濃い霧が立ち込める。頂上は手を繋いでいなければ、互いの存在に気が付かないほどの深い霧に覆われていた。
「これが未来なのか」
開口一番、圭介が疑問を提起した。
楓がしゃがみこむ。地面に手を押し当て、感触を確かめていた。
「もうすぐ霧が晴れる」
「どうしてわかるんですか」
京也が楓に尋ねた。
「表面が乾いている。霧が断続的な証拠だろう。少し待てばいい」
楓の言葉が終わらないうちに視界が晴れてくる。
吸い込まれるように霧がなくなると、たたずむ男がいた。
「待ちくたびれました」
スペードが丁寧にお辞儀をした。
円形の柱の中央部に、入口から続く階段が口を開けている。今まで霧だと思っていたものは、空をおおい尽くす雲の群れ。気づかず進んでいれば、端から真っ逆さまに落ちていた。
「決着をつけにきた」
京也が緑のブレスレットに手をかけた。
「話があります。滝本京也くん、それに響楓さん。たなたは?」
スペードが圭介を侮蔑する。スペードの全身から炎が湧きあがった。
「待ちなさい。スペード」
懐かし声が京也と圭介を貫く。
決して聞くことができない声。
「ミミ……」
圭介がたまらず口にした。
忘れたことない圭介の思い人。
立花ミミが圭介に歩み寄る。
「勘違いしています」
「どういう意味でしょう」
炎をまとったまま、スペードがミミに問いかけた。
「ジャックとクローバーを連れてこい。それがキングの命令」
「ですから、滝本京也と響楓を連れていく。もちろん。関係のない人はダメです。扉をくぐれるのは選ばれた人だけですから」
「困った人。キングは、楠木圭介と響楓を連れてこいと言っているのです」
スペードは瞬時ためらったが、直ぐに理解して京也に向き直った。
「部外者は、滝本京也くんあなたでしたか」
「圭介くん、いこう」
ミミが圭介の手を取る。
「気をつけろ」
楓が叫ぶ。
「圭介。ミミは死んだ」
「だから?」
圭介にとって、京也の言うミミの生死は関係ない。
目の前にミミがいる。
触れられたミミの感触だけで十分だった。
「滝本京也はどうしましょうか」
一応、スペードがミミにお伺いを立てた。
「殺して。その人は、わたしの京ちゃんじゃないから」
ミミが京也に背を向けた。
ミミの前に巨大な扉が出現する。
ひとりでに開く扉からあふれだす光がミミを包みこむ。
二度と離れまいと後を追う圭介。
「圭介ーーーーー」
京也の声は、圭介には届かない。
「早く行け。扉が消える前に」
楓は京也を急かす。
「楓さんは?」
スペードは危険な敵。能力のない楓を置いてはいけない。
「お前の盾になる。策はある。だから私のことはいいから行け」
扉の光が弱まっていた。
「女に恥をかかせるな」
楓の背中が京也を後押ししていた。
「死なないで」
扉が閉じられる寸前、京也は飛び込んだ。
「困った人だ。私の能力はお見せしたのに」
楓がスペードの前に立ちふさがる。ポケットに素早く手を入れ、手触りで菱形のクリスタルを探り当てる。握るとクリスタルが割れ、青い液体が楓の体を駆け巡った。
スピードが退かそうと楓の肩に触ったが、炎は燃え移らない。楓の表面にできた青い膜が炎を遮断していた。
唐突に、楓は後方に倒れ込む。右足を高く上げる。つま先がスペードの顎を蹴り飛ばすと、地面にスペードが沈んでいく。両手をついた楓が、孤を描きながらバク転を決めていた。
「プリズン」
たたみかける楓が、魔法を繰り出す。
六面体の牢獄にスペードが収監された。
「デフレート」
牢獄から徐々に酸素がぬかれていく。
炎が弱まり苦しみだすスペード。
やがて完全に酸素がなくなると、スペードが息絶えた。
立ち去ろうとする楓に、死んだはずのスペードの声が聞こえる。
「キングが目にかけるだけのことはあります。しかし、魔力が弱すぎる」
楓は愕然とした。
スペードが牢獄をくぐり抜け這い出してくる。
スペードが指摘したように、楓の魔力はあまりにも非力すぎた。
死を覚悟する楓の頭上に、無数の炎の槍が浮かび上がっていた。




