036
忘れられない思い出を残し、デートは終了した。京也は透明列車を降りた。傾きかけた夕日が、帰路に大きな影を落している。京也は、気持の整理に追われていた。このままではいけない。姫野の積極的なアプローチを断れないまま、ずるずる深みにはまっていく。マリアに対する気持を隠したまま姫野と付き合っている。
京也は、赤のリングをポケットから取りだした。恋愛指数98%。相性で言えば最高、過去においてこれほどの指数を出したカップルはいない。普通なら飛び上がり喜ぶことなのに、京也の心は晴れない。
姫野に断りをいれ、マリアに告白する。ふたりを失うことになっても仕方がない。正直に話そう。京也は、赤のリングを小指にはめ姫野を呼んだ。
『姫野さん、聞こえますか』
『京也? どうしたの』
姫野の声に緊張したが、京也は決意を実行に移す。
『大事な話があります、会えませんか』
『今から?』
『はい、直接、伝えたいことがあるので』
赤のリングの輝きが弱まる。
『わかった。どこに行けばいい』
京也は姫野の自宅を知らなかった。
『学園、赤鉄の扉の前はどうです』
『転送魔法ですぐにいく』
何も知らない姫野が明るく答える。
『待っています』
能力を発動させ京也は学園に向かった。
姫野は赤鉄の扉で待っていた。チュニツクにデニムのパンツ、髪をしきりに気にしていた。京也が現れると笑顔を見せる。
「急いで出たから、こんな恰好でごめん」
京也は姫野の私服を初めて見た。迷いそうになる気持ちをかき消す。
「大事な話って」
「ごめんなさい」
「どうしたの?」
心配する姫野に、京也は正直に気持を伝える。
「好きな子がいるから、姫野さんとは付き合えない。ごめん……」
赤のリングを外す。京也は、頭を下げ姫野にリングを差出した。
「デートは楽しかった?」
「は、はい」
「そう」
姫野の抑揚は変わらない。
「どうしても、その子じゃないとダメ?」
京也は頷く。
「わかった」
姫野は黙ってリングを受け取り、握りしめた。
京也にできることはもうない。
「さようなら姫野さん」
「さようなら京也」
京也が居なくなった場所を姫野は見ていた。姫野は知っていた。ペンタグラムは未来を予測できる能力。京也が誰を好きで、今日誰とデートをしてきて、これからどうなるか全てわかっている。涙は3日前に枯れ果てていた。
姫野は握りしめていた手を開く。京也から受け取ったはずの赤のリングはどこにもなかった。代わりに、姫野の小指に黒のリングが妖しい紫色の光を放っていた。




