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誰よりも早く階段を上り僕は君に逢う  作者: T-99
三本の柱:青~未来編
36/56

035

 京也は透明列車で隣町を訪れていた。「どこいこうか?」姫野に誘われ、咄嗟に出たのがキュービックホール。キュービックホールは、ゲーム・スポーツを楽しむだけでなく飲食店も軒を並べる複合施設。魔法学園に入学するまでは、圭介とよく遊びに来ていた。「着ていくものがない」と京也が悩むことを知っていたかのように「制服でいきましょう」と姫野が指切りを交わした。

 斜めに傾く巨大なキューブが蛍光色のレーザーを放ち。マスコットのドラゴンが空中を遊覧している。休日の午後は、数えきれないほどの人・ひと・ヒトであふれていた。

 女の子を待たせてはいけない。京也は圭介のアドバイスに従い、30分前に到着したが早すぎた。緊張をほぐすため背伸びをする。京也の小指にリングの反応はなかった。

「だ~れだ」

 冷たい手が京也の目を隠す。甘い匂いがした。

「姫野さん?」

 振り向く京也に姫野が笑う。

 ほぐれたはずの緊張がぶり返してきた。

 横にいた子供が、京也と姫野の視界に割って入る。

「ボクはココロ。デートにお邪魔します」

「デ、デート」

 京也は思わず口ごもり姫野を見た。一瞬目つきが険しくなった姫野が、ココロの耳たぶを引っ張る。緑の宝石が眩しく光った。

「痛い、姉さん」

 京也は、姫野が睨んだのがデートを否定したからでなく、邪魔者に対してだと知りほっとする。姫野を怒らせてはいけない。普段優しい人ほど怒らすと手に負えなくなる。

「ココロが一緒でもいいの?」

「もちろん」

 頷く京也に姫野が引きずった笑顔をみせ、ゆっくり頷く。京也は「否定すべきだった」と考えたが後の祭りだった。

「赤のリングは禁止。いいでしょう」

「はい」

 京也はリングをポケットにしまう。姫野が腕を組もうと京也に近づくと、邪魔するようにココロが代わりに腕にしがみ付いてきた。「姉をとられたくないんだな」すぐに京也は理解した。京也も兄にべったりで、「金魚のフン」と友達にからかわれたことがある。兄と姉の違いはあったが弟の気持ちは良くわかっていた。


 

 キュービックホールの入口で電子スタンプを押される。京也は、10枚綴りの無料チケットを圭介から貰っていた。ココロの分も気前よく出した後、姫野の顔をわざと直視しなかった。


 

 コースを選択してください。

 A:ファミリーコース

 B:カップルコース

 C:フレンドコース

 D:キッズコース

 E:プレミアコース


 

 受付パネルでBを選ぼうとする姫野の手を払いのけ、ココロがDをタッチする。3人のスタンプにDの文字が浮かんだ。京也は、無邪気にキッズコースを選択したココロを微笑ましくみていた。

「痛い」

 声が聞こえた気がした。京也は気のせいだと思った。京也はカップルコース以外、全て経験済みだった。コースはどれも基本は3本の柱と同じ。恋愛・運命・未来をベースに各アトラクションで汗を流す。アトラクションの種類・難易度・人数は来訪者が決めて楽しむことができた。キッズコースは超初級コース。

 ココロは、ガイダンスの説明をするドラゴンのアニメを食い入るように見ていた。ココロにアトラクションの内容を選ばせる。

「ごめんね。迷惑じゃなかった」

「全然。ココロ、無邪気でかわいいから」

「わたしより?」

「ええっ。姫野さんが一番……」

 京也はこたえを間違えなかった。

 手を繋なごうとする姫野。

 京也は積極的な姫野にたじろいでしまった。

「これにした」

 ココロが選んだアトラクションの詳細データが、電子スタンプからホログラムとなり表示された。


 

『ドラゴンスライダー ~ プリンセスを救う勇者たち』


 

 京也が体験したことのないアトラクションだった。ルール説明を見る。どうやら恋愛と運命の要素をミックスしたものらしい。ココロが姫野を連れ先に進む。取り残されないように京也が続いた。


 

『ようこそ、勇者の諸君! 案内役のドラゴンキュービックだ』

 ガイダンスで流れていたアニメのドランゴンが、着ぐるみとなって登場した。安易なネーミングは昔のまま。デフォルメされ、突き出たお腹が喋るたびに揺れ、アトラクションに参加している子供たちの笑いを誘う。

『早速だが。我が国の姫が異国の王ホールに連れ去られてしまった』

 いつの間にか隣にいたはずの姫野がいない。京也の背後の大型スクリーンに制服にティアラをつけた姫野が映る。本当にさらわれていた。京也が驚くより早く、ドラゴンキュービックが両手を口に押しあてオーバーリアクションをとっていた。

『大変だ~。姫はドラゴンスライダーと呼ばれる謎の渓谷に捕えられている。襲い来る数々の試練をクリアしてみごと姫を助け出せ。幸運を祈る!』

 大音量の音楽が流れ、勇者ひとりひとりと握手をしてドラゴンキュービックが子供たちを送り出す。

「えー、出口でドラゴンキュービックと記念撮影ができます。保護者同伴の方はそのままお進み下さい。なお6歳以下のお子様だけで、このアトラクションはご利用できません。年齢確認のためドラゴンキュービックとの握手をお願いします」

 当惑するスタッフに代わり、京也はドラゴンキュービックに抱きつきはなれないココロを無理やり引っ剥がす。京也が握手をすると、スタンプに「14歳・OK・GO」の文字が流れた。

 3D表示された起伏の激しい渓谷。子供たちの悲鳴が暗闇に響いていた。足元を照らす青白い光を頼りに進む。「非常口」と書かれた緑のネオンサインだけが、渓谷とミスマッチしていた。嫌われていると思っていたココロが京也にしがみ付いてくる。

「大丈夫だよ、ココロ。ボクが守ってあげる」

 京也は、隣が姫野なら3回は咬むだろうセリフをさらりと言葉にした。電子スタンプが点滅して「試練」の文字が浮かぶ。ドラゴンキュービックの声が、スピカーから元気よく流れてだした。


 

『ミッション1:巨大ミミズを倒せ

 よく来た勇者よ。

 ここは地獄の沼。

 民たちを苦しめている巨大ミミズを倒してくれ。

 隠された武器を手にしたとき道が開けるぞ。

 ヒント……火を使え』


 

 足元に松明。火は消えている。絵具で染めたような沼。空気を入れると膨らむ張りぼてのミミズが、くしゃくしゃに萎み沼に浮かんでいた。

「簡単だな、松明に沼の業火で火をつけミミズを焼き殺す」

 ココロを残し、京也は松明を拾う。松明は、沼の水に触れると赤いランプが付く仕組み。「火が弱点なら沼の業火で先に死んでいるだろう」つっこみたい気持ちを押さえ京也が沼に近づく。膨らんだ3メーターの巨大ミミズが沼から顔を出した。目のないはずのミミズに丸いつぶらな瞳がはっきり2か所描かれていた。姫野ならこれをかわいいというのだろうか。

「ファイヤー」

 ココロが魔法を使った。

 ゴムでできた張りぼてミミズが燃えている。

 頭部から黒い煙を沼一杯に吐き出した。

「ファイヤ・ファイヤ・ファイヤ」

 京也は魔法をやめないココロの口を塞ぐ。時すでに遅し、火が天井に燃え広がり始めていた。火災警報器がけたたましく鳴る。スプリングクラーが嵐のごとくフル回転しながら水を吹きかけ続けた。燃えさかる地獄の沼に大雨が降っていた。

「発動」

 ココロを抱えたまま京也は、非常口から脱出した。泣き叫ぶココロを抱きしめる。

「怖くない。怖くない。ミミズは死んだよ」

 京也は兄と挑戦したアトラクション「ゴーストタウン」を思い出した。死者に追われ逃げる兄弟。偽物なのに怖くて京也は涙を流しながら逃げた。決して京也の手を離さない兄が誇らしかった。



「火事があったけど大丈夫だった?」

 姫野がティアラを乗せたまま出口から飛び出してきた。

「この通り」

「配線トラブルで引火したみたいだけど……」

 火災報知器は鳴きやみ、ドラゴンスライダーの入場規制は既にとかれていた。何ごともなかったようにドラゴンキュービックと数人の子供が楽しそうに記念撮影をしている。泣きつかれたココロが京也の腕で寝息を立てていた。

「デートはここまでにしましょう」

「そうですね姫野さん」

 姫野がココロを抱きかかえ、京也にいきなりキスをする。

 柔らかい唇が京也の頬に触れた。

「姫野さんはダメ。名前で呼んで」

「……」

 姫野の名前が思い出せない。

 京也の記憶回路はショートしていた。

『妹をありがとう』

「妹?」

 3割ほど回路が復旧した京也は、姫野が冗談をいったと解釈した。



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