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明日、死ぬとわかっていたら何をするだろう。
千差万別の回答のなかで、滝本京也は戦うことを選んだ。できるだけ階段の多い場所。あるいは段数が多い階段を探す。立地条件は生き延びるために不可欠な要素である。高層ビルやタワーが思いつく。神社や仏閣なども候補にあがる。どの場所も利点があるが、ひとつ問題があった。他人を巻き込む危険性があるということ。
姫野の話では「死」という概念が浮かびあがるだけで、具体的な時間や場所は見ることができないという。日付が変わった瞬間死ぬか、丸一日経過する直前に死を向えるのか、どちらにしても人がたくさん集まる場所で仮面の男に襲われることは避ける必要があった。
場所が決まらないうえに倒す方法も見つからない。術者を突き止めるのはほぼ不可能。八方塞がりのまま時間だけが過ぎていく。
昨夜は大変だった。ワスレに出口を教えられ、緑の柱を出ようとすると警報音が鳴り響いた。閉じ込められた京也は騒ぎが収まり、楓が助けにくるまで柱の奥に隠れるはめになった。貴重な一日を無駄にしてしまった。
家には帰らず、京也は部室棟の屋上でフェンスにもたれかかる。両親には、圭介の家に泊まるといった。閉じこもったままだったので、両親が逆に安心する。コンクリートの表面には、ところどころ黒い染みがついた箇所がある。霞んですべてが消えたあの日。
『京也、起きている』
小指の赤いリングが光る。
『心配しすぎです。運命は断ち切ったと言ったでしょう』
『ペンタグラムの死相が消えないから』
『効果はすぐにでないといっていました』
京也は悟られないようにゆっくりと話す。
『そう』
『緑のブレスレットを見せたでしょう』
『心配症かな』
『明日は学園を休みます。心配なら様子を見に来て下さい』
『いい。これがあるから』
リングがいっそう輝きをました。もうすぐ日付が変わる。
『おやすみなさい、姫野さん』
『おやすみ京也』
これでよかったと京也は思う。
ついてもいい嘘がある。
もう誰も巻き込みたくない。
京也は三色のプロミスリングに願いを込めた。




