024
「用意はできたか」
「いいですよ」
大剣ワスレの呼びかけに京也は身構えた。
ライムタベラートで勝負するしかない。
「発動」
立ちつくす京也。
何も起こらない。
3秒が経過した。
目の前に大剣が迫ってきていた。
咄嗟にしゃがみこむと、頭上を通過したワスレが壁に突き刺さる。
破片が降りしきるなか、京也は必死に這いながら逃げ出す。
「馬鹿者。運命に立ち向かわず逃げだす馬鹿がどこにいる」
ワスレは剣身を震わせながら壁から抜け出ると刃先を京也に向けた。もともと運動神経がいいわけでも、武術の心得があるわけでもない。階段のない円形状の部屋で京也は逃げまわっていた。
「はあ~情けない。お前は何しにここに来たのじゃ」
「審判を受けて、と言ったから受けたんだ。それなのにさ、いきなり大きくなって……卑怯……」
京也はぶつぶつ不平をもらしながら口を尖らせる。
「わかった、わかった、ヒントをやる。能力を使ってみろ」
「いやだ。能力が発動しない」
「いいから、騙されたと思って使って見なさい」
「騙されたくない」
「そう言わず。使って下さい。お願いします」
大剣が頭を下げる。
大きく縦に振られた刃先が、京也の足元50センチの砂にめり込んだ。
「あっ、すまん」
わざとだと京也は思った。
「は・つ・ど・う」
いやいやながら能力を使う。
やはり何も起らない。
座り込んだまま3秒経過。
「何も起こらないじゃないか!」
「起らない。いや怒らない。足元の砂をよく見てみなさい」
砂に目をやる。
京也の位置は動いていない。
発動前後にズレはなかった。
しかし、砂上にはホバーシューズを出発点として部屋全体に大きな円が描かれていた。
「どういうこと?」
「ヒント終了。さあ再開するぞ」
能力が発動しないと思っていた。
だとしたら砂上の円はなぜできた。
京也が勢いよく立ちあがると体についた砂がぱらぱらと落ちていく。
ワスレはクリスタルの直ぐ横で2回戦目に備えていた。
赤の柱は、京也にとって別の世界へ繋がる階段だった。
緑の柱も、もしかしたら……。
「よいか、始めるぞ」
「はっ、はい」
京也は、赤の柱同様に試してみることにした。
「発動・1・止まれ!」
ワスレを中心にした円周上3分の2の場所に京也は移動していた。緑の柱の内部は無数の審判の部屋が存在している。部屋と部屋とを結ぶ道を平らな階段と仮定すれば理屈上発動は可能。実際能力は使えた。能力は次の部屋を求め移動したが、出口がないため円形状の部屋を一回りして発動地点に返ってきた。つまり、赤の柱が縦に伸びる階段なら、緑の柱は横に伸びる階段。
「さてさて、これからどうするつもりじゃ」
大剣は回転すると、中心から京也目がけて発進した。
能力を発動する京也。
1秒後に姿が現れた。
執拗に追いかけてくる大剣をかわすため能力をまた使う。
砂上には模様を描くように円が次々に描かれていった。移動する度に少しステップを変え、ジャンプをしながら発動することで、大小さまざま円を描くことができた。
「逃げてばかりだと倒すことはできんぞ」
ワスレに言われなくても京也もわかっていた。
左のつま先を砂に立てたまま能力を発動してみる。
繰り返し何度も連続で能力を発動していくと砂煙が吹き荒れ始めた。
煙の高さが徐々に増していくと、視界を遮ように砂の粒たちがワスレに降り注ぐ。
「今だ!!」
力を込めワスレに体当たりする京也。
ビクともしないワスレ。
逆に京也がはじき返された。
「アイデアは悪くない。だがこれで終わりだ」
「発動・止まれ!」
大剣が砂上のわずか数センチで止まった。
「なかなかしぶといわい」
京也は立ち上がれなった。
恐怖で体が竦んだわけではない。
大剣がぐるぐる回っている。
多用した能力のせいで三半規管がやられてしまっていた。
「仕切り直しの3回戦といくかの」
ワスレがまた定位置のクリスタルへ向かう。
目がまわる京也は「待って」と言おうとして息を止める。
もしかしたら、ワスレを倒せるかもしれない。
「準備はいいか?」
「はい」
力強く答えた京也が再び能力の発動を繰り返した。
砂煙が生まれ視界が濁ってくる。
砂の雨が降りだしたころに京也が姿を見せる。
「工夫がない。その作戦はダメだったろうに、つまらんのう」
大剣が垂直に切り込む。
京也はかわすため足から砂に滑り込んだ。
見上げると銀色の剣身が鼻先に迫ってきていた。
間一髪でかわした京也が柄にしがみつく。
「発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動」
超高速で京也が大剣ワスレと伴に回転する。
「発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動発動」
京也は一心不乱に限界まで能力を発動し続けた。
巨大な砂の竜巻が荒れ狂っていた。天井や壁にぶつかるたびに鈍い金属音が部屋中にこだまする。
京也は不思議な体験していた。回転数が増え、スピードがどんどん加速すればするほど逆にゆっくりと時間がながれていく。目にするもの全てがスローモーション、舞い散る砂の一粒一粒まで確認できる。間延びした声がする。ワスレが喋ろうとしているみたいだが、言葉の最初の文字をいまだ言い終えることができない。時が止まる直前の世界。
「止まれ!」
慌てて発した京也の言葉に急ブレーキがかかる。舞いあげられていた砂が滝のように一斉に落下した。竜巻が消え波の音が円形状の部屋に響く。京也は遠心力の輪から外れうずくまり動けないでいた。
「刃先が欠けたが、倒すには少々能力不足のようだ」
京也の上に大剣が突き刺さった。
「おおおおお、どうしたことじゃ」
ワスレは確かに京也を串刺しにしたはずだった。
しかし、振り下ろされたはずの大剣は、京也の遥か前歩に振り下ろされていた。
「何じゃこれは、おおおおお、ど×こ○に×うにい△く▽つもりだ××○△××」
目が回ったワスレは、蛇行しながら壁に激突する。今度はふらふらしながら斜めに進んで、いや後退して、右にいったかとおもうと音をたててそのまま倒れ込んでしまった。
おぼつかない足どりのまま、京也がワスレを追いかけ剣身に座り込む。
「馬鹿者。顔にすわりこむにゃ」
可愛らしい声をだす大剣ワスレに、にやついた京也の顔が映っていた。




