001
魔法学園は、能力者が集い己の力を磨く学び場。まさに選ばれた者のみが入学を許される。副会長の中村信吾は、生徒会室で二人に背を向け、並び立つ三本の柱を眺めながら生徒情報を思い返していた。
【検索結果:滝本京也】
魔法学園 技術科
1年F組
No.15
タキモトキョウヤ
滝本京也
14歳
能力「ゼロ」
魔法レベル「判定不能」
属性「なし」
特記事項「なし」
e「100」
【検索結果:姫野舞】
魔法学園 魔法科
2年A組
No.32
ヒメノマイ
姫野舞
15歳
能力「トリプル」
魔法レベル「AA」
属性「光」
特記事項「詳細データロック」……閲覧に要パス
e「2,947,136」
朝の一連の騒動について風紀委員の楓から既に報告を受けていたが、タブレットに浮かびあがる二人の能力格差に苛立ちを隠せずにいた。恋愛沙汰に口を挟むつもりはないが、同じトリプルとして、姫野舞が滝本京也のどこに魅かれたのか信吾はどうしても理解することができなかった。
二人が並んでみれば一目瞭然。ボサボサ頭でこれと言って特徴のない男と、昨年一年生ながら学園の準ミスに選ばれた女。背がもう少し高く、趣味の悪いリボンさえなければ信吾もミス学園に投票していたかもしれない。姫野の年齢から判断し、チャーム(魅了)や、魔道具「キューピット君」の使用を懸念し、キャンセリングを試みたほどだ。
「滝本くん、姫野くんの申し入れにより恋愛の審判を生徒会が正式に受理した」
振り向き信吾は続けた。
「依存はないかね?」
「……」
「はい」
返事のない京也にかわり姫野が答える。
「学生憲章87条は知っているね」
「いえ」
「滝本くん、ネームプレートに手を当ててみなさい」
京也は左ポケットに飾られたネームプレートに手をかざした。すると青白い光とともに京也の頭の中に『87』の番号が浮かびあがり、音声が聴こえはじめる。
『学生憲章 第87条 本学生は恋愛を禁じる。ただし恋愛の審判にて祝福を受けた者はこの限りにあらず。なお学生憲章細則第352条の2 申し入れ者の項を参照』
『参照……本件は、学生憲章細則第352条の2 申し入れ者……⑤トリプルからの申請……に該当』
京也が聞き終わり目を開けると信吾が話を続ける。
「理解できたようだね。恋愛禁止の学園で唯一許された例外規定。もちろん断ることも可能だが、乙女に恥をかかせるのは失礼と思うがどうだろう?」
もちろん祝福は訪れないだろうが……信吾は思わず続けようとした言葉を飲み込んだ。
「わかりました……」
観念した京也を横目に、姫野は満面の笑みを浮かべ転送呪文を唱えると生徒会室から姿を消した。魔法をつかえない京也が、対照的に重い足取りで生徒会室を出ていった。
「会長、本当にあれでよかったのですか?」
信吾が、壁に掛けられた六角形の鏡に話かけると、鏡の中から別の顔が現れた。
「ええ、副会長も知っての通り、彼は滝本翔の弟ですから」
「しかし、兄は奇跡のトリプルと呼ばれた人。何の能力もない彼とではあまりにも……」
「魔法能力は関係ありません」
「……」
「もしかして副会長、準ミスが彼を好きだということが気に要らないのですか?」
「いいえ」
「とにかく、監視を続けて兄との接触に備えてください」
「わかりました。生徒会執行部一同、会長のためいつでも命を捨てる覚悟はできています」
「ありがとう」
それっきり声が聞こえなくなると、信吾は鏡を見続けたまま呟いた。
「私はあなたに投票したんですよ」