014
制服に袖を通して、学園に行くため部屋を出ると玄関に人影が見えた。こずえがいるのかと思いドアを開くと姫野舞が下を向いたまま立っていた。
「姫野さん?」
「ごめんなさい」
顔を上げることもなく謝る姫野に京也は当惑した。
「どうしたんですか」
「立花さんのこと……。知っていたけどどうにもできなかった」
ミミに対して責任があるのは京也であって、面識のない姫野が謝る理由を京也は理解できなかった。
「ミミのこと、知っているのですか」
「わたしは立花さんの死を知っていました。そして京也が悲しみ苦しむことも知っていて告げなかった」
「どういうことです」
「わたしには、未来を知る力がある。事前に死という事実を知っておきながら……ごめんなさい」
「姫野さんのせいじゃありません。未来予測の能力のことは知っています。学園通信で見た記憶があります。だからといって姫野さんが謝る必要はありません」
京也は微笑んだ。
「どうして? 知っていて、教えもせず、何もしないわたしに微笑むことができるの、なぜわたしを責めないの」
顔を上げ京也の目を見つめたまま、姫野は答えを待っていた。
「気持ちがわかるからです。姫野さんの気持が」
圭介の顔が浮かんだ。今なら分かる圭介の優しさが、どういう気持ちで京也のもとを訪れたのかはっきりと京也は感じられる。
「目をみればわかります。ミミのため努力してくれたこと、未来は変えられなかったけど姫野さんは頑張ってくれた……本当にありがとうございます」
自然と頭を下げた。姫野とここにはいない圭介とこずえの京也を思う気持ちに。
「京也に伝えなければならないことが……」
涙を浮かべ姫野は口にしたくない言葉を告げる。
「あなたは3日後に殺される。仮面の男があなたを殺しにくる」
「あいつが僕を」
「何度も努力した、死を回避するため何十回とルートを選びペンタグラムを動かした。でもダメだった。ペンタグラムで確定した未来は変えられない。運命は変えられないの」
言い聞かせるように話した後で姫野は肩を落とした。
「未来は決められている。わたしには何もできない」
死の宣告を受け、京也は動揺するかと思っていたが、別の感情が熱く沸きだしてきた。
ミミの仇を打つチャンスがくる。
「京也、運命の審判を受けて、柱の力をもってすれば運命を変えられるかもしれない。お願いだから緑の審判を受けて」
「どうして姫野さんはこうまでしてくれるのですか?」
「それは……」
好きだと伝える勇気はなかった。死を告げておきながら都合よく気持を伝えることはできない。ましてや立花ミミのことを考えるとよけいに気持に拍車がかかった。
「わたしは恋愛の審判をこれから受けに行きます。好きでもない人と……結果も知っています。84%。これがきめられた未来。変えることのできなかったわたしの未来……」
姫野は背を向け転送魔法で姿を消した。
京也は心で3週間持ち続けていた、死に対する恐怖や葛藤の塊をぶち壊してやった。
「未来は変えられない、冗談じゃない。助けて代わりに死ぬのがミミの未来のはずがない。呪いで殺しておきながら勝手な理屈は許さない。未来を変えてみせる」
死の直前まで抗い運命に立ち向うと京也はミミに誓った。