012
暗闇で迷うわたしに星の光が見えた。
生まれてすぐに能力が発動し、引き換えにわたしは光を失った。「テレパイヤー」と呼ばれるわたしの能力は、頭に浮かぶ色で個体情報を認識できた。心が優しい人ほど色は明るく、心に傷を持つ人ほど色が暗くなる。
両親は明るいピンク色で、わたしの目を診断してくれた先生は淡い水色をしていた。初めのうちは対面した人しか色を認識することができなかった。それが日に日に座っているだけでたくさんの数の色を感じることができるようになった。たくさん色が輝き、たぶん見たことはないけれど、星もきっと同じように夜空に輝いているのだろうと想像できた。
わたしの一番のお気に入りの星は、金色の星。小さいけれどどの星よりも明るくて、感じるだけで心が優しくなれた。星に会いたくて何度も何度も呼びかけた。日常で起きる、うれしいこと、悲しいこと、伝わるはずのないのにとりとめのないことを毎日のように話し続けた。
「心配症のパパは、わたしをひとりで外出させてくれない。どう思う星さん」
届くはずのない声を口にする。
2階の窓から子供たちが遊んでいる声がする。
「外に出てみたい」
「なら、僕が連れて行ってあげるよ」
「誰?」
「君だろ、毎日僕に話かけてくる女の子は」
金色の星が目の前で瞬き、胸が高鳴る。
「もしかして星さん?」
「星じゃない。滝本だよ。滝本京也」
「滝本京也」
「そう。君の名前は?」
光に負けない優しい声を京也はしていた。
「ミミ。立花ミミ」
「そんじゃ行くか」
「待って。わたし目が見えないの……だから」
「ふーん。かまわないよ」
「ええ」
そう言うと京也は、2階の窓からミミの部屋に入り、ショルダーバックからホバーシューズをおもむろに取り出す。
「きゃあ」
素足を触られ驚くミミにかまわずホバーシューズを履かせだした。
「兄ちゃんの借りものだけど心配ないよ。サイズはオールフリーだから」
ホバーシューズは、ミミの足のサイズにピッタリあうように自動的に収縮した。
「立ってミミ」
京也は手を取り2階の窓から嫌がるミミを無理やり連れ出すといきなり飛び降りた。
「きゃああああああああ」
叫ぶミミの手を両肩に置き、支えながら少しずつ高度を下げていく。地面から20センチで落下が止まると、京也は重力制御の方法を教える。
「心配しなくていい。安全装置がついているから、肩の力を抜いて普通に立てばいい」
ミミは信じられた。光をみればわかる。力を抜いて立って見ると、違和感があるが思ったほど難しくはなかった。
「ミミ、僕の手を持って」
「こう」
浮かんだままミミの体が前に進んで行く。力は必要なかった。足先に力を入れるだけでいい。だんだんコツがつかめてくると、肌に伝わる風を感じることができた。
「どうしてここがわかったの?」
「兄ちゃんが教えてくれた。兄ちゃんはすごいぜ、どんことでもできちゃう」
「どんなことでも」
「ああ、でもホバーシューズだけは僕の方がうまい」
「じゃあ将来の夢は、ホバーシューズの選手になること」
「そんなもんないよ」
「そうなんだ」
スピードが上がり揺れを感じるようになったが不思議と怖くなかった。
「お助けマンになる。兄ちゃんのような能力はないけど、すごい魔道具をいっぱい作ってふたりで困っている人を助けて回る」
「わたしのことも助けてくれる」
「ああ、それよりミミの目が見えるような魔道具を作ってやるよ」
「本当?」
「ああ」
「本当に本当?」
「ああ」
「京ちゃん」
「ん」
「約束だよ」