season2-1 謎のDVD
『宇宙の謎研究サークル』というなんとも奇妙なサークルに入った拓也。そこは美奈という支配者が統治するサークルだった。
まだ桃色の桜が満開の頃、拓也はまだ覚えたての大学への道を歩いていた。そして、昨日自分が犯したあやまちを悔いていた。あのサークルに入ったことを……。
「それにしても後一人か……。美奈さんの話によると、大学にサークルとして認めてもらうためには最低でもメンバーが三人必要らしいから後一人見つけなきゃな」
つい一人事で嘆いてしまうくらい、拓也は落ち込んでいた。
「それにしても、おかしいと思ったんだよ。ほかのサークルはちゃんとプレートだったのにあそこだけ張り紙だったもんな」
「もしかしてあの部屋も奪ったのかも……」
そう思うと拓也は寒気がした。
大学に着いた拓也は教室には向かわず、すぐにサークルの部屋に向かう。美奈より後に部屋についたら何を言われるかわからないからだ。拓也はそれほど、女性が苦手なわけではない。むしろ女性を引っ張ることに長けてるくらいだ。過去に彼女もいたことがあるし、男友達も女友達も多い。大学に入ってすぐに友達も出来たし、明るい性格も幸いして、世渡り上手となっていた。
そんな拓也も美奈だけは苦手だった。
美奈は拓也より一つ上の十九歳。女性としてみれば、誰でも見とれてしまうような可愛さを持っている。きれいに茶髪に染まったセミロングのストレートの髪にクリッとした大きな眼。スタイルも悪くないし、体育会系の健康的な身体をしている。
しかしそれは見た目の問題で、中身はボーイッシュを超えた男そのもの。気に入らないことはしない。自分の興味のあることにしか動かない。人を簡単に利用する。人の話聞かない。その上人を召し使いかなにかと勘違いしているとしか思えないような言動と行動。会ってまだ一日なのに拓也はまるで美奈のすべてを見たかのように美奈に対して嫌悪感を抱いていた。恐らくそれに勝る理由がなければ、拓也は一日であのサークルをやめていただろう。
「おはようございまーす!!」
肩に力の入った拓也の元気な声が部屋に響きわたる。
「美奈さん、……来てないのかな?」
拓也は力の入っていた肩の力を抜きその場で部屋を見渡した。相変わらず金魚が一匹窓際の水槽に入って泳いでいる。この金魚に名前は付いているのかと疑問に思いながら部屋に置いてある机の上に一枚のDVDがおいてあるのを発見した。拓也は机に近づき、そのDVDを手に取る。
「……まさか、美奈さんからの指令が入ってるんじゃないだろうな、もしそうなら見たくないなー」
そんな不安を口に出して、言ってると美奈が意外と静かに部屋に入ってきた。
「あ、おはようたっくん。早いのね」
「おはようございます。美奈さん」
美奈は拓也が手に持っているDVDを発見すると、
「それどうしたの?」
と聞いた。すかさず拓也が聞き返す。
「これ、美奈さんのですか?」
「知らないから聞いてるんでしょ?たっくんってやっぱ馬鹿ね」
拓也は『馬鹿とはなんだ!』と言いたかっただろうが、美奈に逆らっても無駄なことは昨日で分かったので何も言わずに会話を続けた。
「部屋に着たらすでに机の上に置いてあったんです」
「ふーん……、もしかして」
「え?」
「謎の情報提供者からのディスクだったりして」
「謎の情報提供者? だれですかそれ?」
「知らないわよ、謎だって言ってんでしょ。馬鹿。よくドラマとかだとあるじゃない。調査に行き詰った時に現れる情報提供者が、きっとそれよ」
拓也はドラマの見すぎではないかと思ったが、そんなことを口に出すこともできない。美奈は拓也の隙を突いてDVDを奪い取った。貸してと言えば済むことだが美奈は奪い取った。
「あ、なにするんですか!?」
「なにってDVDの中身を見るに決まってるでしょ!」
拓也は目の前で起こった理不尽な略奪に不満を感じ思わず口に出してしまった。美奈は拓也の言葉を軽く流し、部屋のパソコンにDVDを挿入し、再生した。
映像には三人の宇宙服のようなものを着た男が立っていた。なにやら話をしているようだが、英語で話していて、拓也は理解できなかった。
「英語だとなにを言ってるか分からないですね」
「え? あんた馬鹿?」
相変わらず美奈のけなしがすごい速さで入る。
「英語もわかんないの?」
「え? 美奈さんは分かるんですか?」
「当たり前じゃない! 英語どころか、イギリス語、フランス語、中国語にギリシャ語に至るまで、全部で二十五ヶ国の言葉を話せるわよ」
「ええっ! 美奈さんって天才……!?」
「当たり前でしょ。あんたとは頭のできが違うのよ」
美奈は胸の前で腕を組み、勝ち誇ったように鼻高々だ。
「仕方ないわね。わたしが同時翻訳してやるわ」
そういうと、美奈はもう一度DVDの最初から再生を始めた。