season12-3 フィアナ
そこはその場所で空に一番近い場所。
下を見ると、大きな樹とベンチが見える。そこは、白い建物の屋上。
コンクリートで敷き詰められた屋上で、片手に持ったネックレスを空に掲げて空を眺めている男が一人。
「やっと、ここまで来たよ、フィアナ。だからもう安心して寝ても大丈夫だよ」
レンと呼ばれているその男は、少しだけ微笑み空にその想いを巡らせていた。
〜10年前〜
「フィアナー!」
「あ、お兄ちゃん!」
そこには、病院のベッドで寝るフィアナという名前の女の子の姿があった。
フィアナはレンの実の妹。生まれたときから病弱で人生の大半を病院のベッドの上で過ごした。レンは子供ながらにフィアナのことが心配で仕事で病院に来れない両親の代わりにほとんど毎日病院に来ていた。それこそ学校が終わったらすぐにだ。友達とも誰とも遊ぶことがなく、一直線にフィアナの元へ。
「ごめんねお兄ちゃん」
「ん?」
レンは椅子に座りながらフィアナの話に耳を傾ける。
「あたしの身体が弱いばかりに毎日病院通いで、友達ともあそ……」
そこまでフィアナが言うと、レンはフィアナの唇にソッと手を置きそれ以上喋らせないようにした。
「それは言わない約束だろ?」
レンはニッコリ笑って手を元の位置に戻した。フィアナは申し訳なさそうな笑顔で頷く。
「そうだ。今日はフィアナにプレゼントを持ってきたんだ。少しでもフィアナが病院でいる時に寂しくないように」
そう言ってレンはカバンの中からノートパソコンを取り出した。
「ノートパソコン?」
フィアナは不思議そうにレンの顔を見た。
レンはノートパソコンを開き、起動させた。しばらくしてデスクトップの画面になると画面の端からマスコットキャラのようなプニプニッとしたクマが二足歩行で歩いてきた。そして画面の中心まで来るとふきだしと共に”フィアナちゃんこんにちわ”の文字。
「わぁー! かわいい! どうしたのこれ? お兄ちゃんが作ったの?」
「ああ、これで少しは寂しさが紛れるだろ? さ、名前をつけてあげよう」
レンはフィアナにデスクトップで動くクマの操作方法や楽しみ方などを教えた。
それからというもののレンが病室に来ると必ずそのクマのマスコットキャラと遊んでいるフィアナの姿があった。レンはその姿を見てフィアナが少しずつ元気になっているように感じていた。
ある日レンがいつものように病室に来るとフィアナはパソコンを閉じなにやらニッコリ笑っていた。
「お兄ちゃん、今日は誕生日でしょ? ハイ! あたしからのプレゼント!」
手にはクマの形を象ったネックレスが握られていた。どこからどうみても手作りのネックレス。クマの形はなんだか不恰好だし、正直言って市販のソレと比べてもまるで駄目駄目な出来。でもレンにしてみれば市販のどんな高級なネックレスよりもどんな質の良いネックレスよりもそれが一番、一生大事にしたい宝物にしか見えなかった。
――だが、しかし現実は残酷だった。
レンが知らせを受け駆けつけたときには、フィアナの顔には白い布が被せられ二度と見せてはくれない笑顔を残し一人静かに眠っていた。
レンは悲しく泣き崩れた。たった一人で。
そこには、両親の姿はなく時が止まったフィアナの変わりにレンだけが暗い空間でただひっそりと時を刻んでいた。