season12-1 拓也と美奈
そこは白い建物が建つ庭の一角。
そこにはベンチが一つあり、その横には緑の葉をたくさんつけた樹が一本その雄大さをかもし出して立っている。
そして、そのベンチには一人の青年が腰を降ろし、遠く遥かに見える海の色を反映した澄み切った青い空を見つめていた。
しかし、青年の目に映っていた空は、激しい衝撃と共に次の瞬間には芝生が覆い茂る地面を捉えていた。
「やっほぉ! たっくん、なにたそがれてんの!?」
先ほどまでベンチに座り空を眺めていて、今は地に這いつくばっている青年は拓也だった。そして、地に這いつくばる原因を作ったのは美奈だった。
「み、美奈さん!?」
拓也は手を頭にやりながら美奈のほうを見た。
「一人でなにやってんの?」
「……別になにもやってないよ。ただ、今までのことを思い出してただけさ」
その言葉に美奈は疑問符を浮かべた。
拓也は、地面から腰を上げ、再びベンチに座った。美奈もそれを見て無言でベンチに座る。
「今まで、俺はたくさんの人に助けられてきたなぁって思って。美奈さんやレン、ブラッドやデイビットにレイラ。みんながいたからここまで来れた。とても俺一人じゃここまでは来れなかった」
「……当たり前じゃない。一人でなんでも出来る人間なんていないわ」
「レンはなんでもできそうだけど?」
「レンにだって出来ないことはあるわ。例えばレンは、泳げないみたいよ」
「え?マジっすか?」
「小さい頃からずっと引きこもってパソコンばっかやってたから泳いだことがないそうよ。まぁ、あいつの場合は自信家だから絶対そんなこと言わないと思うけど。私の情報網をなめてもらっちゃ困るわ」
「そっか、そういえば美奈さんはNSAだったね、確か。あれを知った時はマジで驚いたよ。まぁただの学生じゃないとは思ってたけど。なんか俺の周りはすごい人ばっかだ」
「たっくんは馬鹿だからなんか勘違いしてるみたいだけど、私達もたっくんにいろいろ助けられてきたんだよ。たっくんがいなかったらここまで来れなかったのは私達も同じ。たっくんのおかげで真実を知ることも出来たしね」
「真実か。俺達が追い求めてきた真実は全部分かったんだよね。異性人の謎も、UFOのことも隠してきた秘密も」
「……やっぱりたっくんは馬鹿丸出しね。まだ全部の真実は分かってないわ」
その言葉に拓也は美奈のほうを見た。
「最初に見たDVDを思い出して。あのDVDでアームストロング船長達が異性人に渡していた謎のモノ。まだあれがなんだったのか分からないわ」
「そういえば、確かになにか渡していた」
「実はたっくんが誘拐された後に、レイラが言っていたことがあるの。アダムとイヴについてそしてその子供メシア――」
「メシア?」
「キリスト教では救世主の意味を指すのよ。これはレイラの推測にすぎないし、私達が聞いた真実とは少し違うんだけど異性人の真の目的は究極の進化じゃないかって。人間のアダムと異性人のイヴの間に生まれし究極の生命体メシア。それこそが全知全能完全な細胞を持つ究極生命体、究極の進化を遂げた生命体」
「なんか、ゲームの話みたいだね」
「まぁ、いずれにしろたっくんと一緒に宇宙に行けば分かることよ。だからたっくん頼りにしてるんだからしっかりしてよね」
美奈は拓也の顔を見て言う。以前の拓也ならこういうことを言われれば照れ隠しをしたりしただろう。しかし、今の拓也に迷いや動揺という言葉はあまりに不向きだった。
「うん、まかせて!」
美奈はその言葉に少しだけ微笑む。
「あ、そういえば美奈さんはどうしてNSAに入ったの? 前から疑問に思ってたんだけど」
美奈は微笑んでいた顔を引き締めると拓也に言う。
「そっか、まだ話してなかったわね。ちょうどいい機会だから話してあげよっか」
拓也も美奈の真剣な表情に顔を引き締める。
「私は、孤児だったの……」
そして美奈は静かに過去を話しはじめた。
読んでいただきありがとうございます。いよいよseason12開始です。今回は美奈とレンに焦点を当てた話になります。ではどうぞよろしくおねがいします