season1-4 選ばれし者
拓也はゆっくりと周りを見渡す。そこは何もない真っ白な空間が広がっていた。灰色の生き物が何体かいる。そのうちの一体がゆっくり拓也のほうに近づいてきた。しかし、歩いている様子はなくまるで空中に浮いているようだった。灰色の生き物は拓也のすぐ目の前までやってきた。
すると突然拓也の頭に激痛が走った。拓也はあまりの激痛に頭を抑え、うずくまる。と、すぐに頭痛はなくなった。拓也は再び灰色の生き物のほうを見る。灰色の生き物はうずくまったままの拓也のほうを黒い大きな目でじっと見ている。
後ろのほうから、もう一体同じ灰色の生き物が出てきた。双子のようにそっくりだった。その灰色の生き物の小さな口がゆっくりうごく。
「すまなかった。我々はおまえに危害を加えるつもりはない」
綺麗な日本語で灰色の生き物は話かけてきた。
「どうやらおまえはまだ覚醒していないようだ。だからテレパシーができなかったんだ。激痛はそのせいだろう」
いままで話さなかった拓也の口がようやく動いた。
「あんた達は一体? 宇宙人なのか?」
「……いまはまだその答えを知るときではない、だが、いずれその答えを知る時が来るだろう」
無表情の顔で灰色の生き物は答えた。
「あんた達はなにしに来たんだ? 俺をどうするつもりだ?」
拓也は恐怖を抑えながら賢明に聞いた。
「……怖がらなくていい。我々はお前の敵ではない。我々はお前に会いにきたのだ」
「俺に?」
「お前は、我々が捜し求めてきた『アダム』なのだ。いまは覚醒していないから自覚がないだろうが、いずれ分かるときが来る」
「アダム?」
「もう、戻るがいい。選ばれし者『アダム』よ。またいずれ会うときがあるだろう。そのときおまえはすべてを知っているはずだ」
灰色の生物がそれを言い終えた瞬間、辺りが再び七色の光りに包まれ灰色の生き物は光りのなかに消えていった。
光りが再び消えると拓也は草原の真ん中に立っていた。空を見上げるとそこには七色に輝く物体が、金属音と共にゆっくり上昇していた。それは、まるでこの世に存在しえないほどの圧倒的な存在感を示していた。物体はしばらく上昇すると、今度はとんでもないスピードで空の彼方へと消えていった。
拓也は物体が消えたのを確認すると辺りを見渡した。そこには、ほかの部員達が全員倒れていた。拓也は慌てて近くの先輩の所に駆け寄った。どうやら、眠っているだけのようだ。しかし、それに安心した瞬間拓也はもう一つとんでもないものを発見する。そこには、草原の草が広範囲にわたって中心のほうになぎ倒され、サークルを形成していたのだ。