season8-5 覚醒
「アダムという言葉は知ってるわよね? 聖書に出てくる神が粘土より創ったとされる人の名前がアダム。つまり初の人類。彼らが拓也をアダムと呼んでいるのはそこから来ているの」
レンは運転しながら、レイラの話を静かに聴いている。
「アメリカも異性人も真の目的は、”究極の進化”。それにはアダムの遺伝子が欠かせないの。アダムは遥か昔、人間に植えられた”種”が長い人類の歴史の中で徐々に育っていき、今の拓也でまさに開花した。それは彼らの求める究極の進化の遺伝子の源になるモノ。だから彼らはアダムを必要としているのよ」
「拓也が、アダムが覚醒するとどうなるんだ?」
レンが運転をしながらレイラに聞いた。
「覚醒しても見た目はなにも変わらないわ。覚醒とは、アダムの中での意識の変革のことよ。さっきも言ったようにアダムの中には遥か昔に植えつけられた種が蓄えてきた全人類の進化の歴史が刻み込まれているわ。つまり、人類が持つ全ての能力、考えなどの感情がすべて解放された状態になるの。宗教で言うところの”悟り”になるかしら?」
「悟り……か」
「それ故に、彼らのテレパシーも読み取ることができ、人類が不可能とされてきた超能力の使用も恐らく可能になるわ。それが覚醒。でもそれには彼の意思が大事なの。まだ覚醒していないということはまだ意思が足りないのね。それはまだ真実を知らないからでしょうね。今の私達と同じ、何が真実で何が嘘か分からないのよ。だから意識を改めることができない」
「レイラ、もしたっくんが覚醒したら彼らはたっくんを……」
「……連れ去るでしょうね。準備のために」
「じゃあ、もしかして拓也は覚醒したのか!?」
レンが声の音量をあげて興奮気味に聞いた。
「わからないわ。私が見ていた限りではそういう雰囲気はなかったけど。でも拓也が彼らによってアブダクションされたとしたら……。いえ、はみ出し組みだったらいいんだけど」
「どういうことだ?」
「私やアダムに接触してきたチルドレンははみ出し組み。もちろんはみ出し組みじゃないアメリカやロシアに手を貸すチルドレンもいるわ。本来はそれが正常なんだもの。そしてそのチルドレンもはみ出し組も同じ能力を持ってる。僅かな時間に連れ去ることもできるわ。もし、はみ出し組みではない政府側のチルドレンの仕業なら……」
「まさか拓也はもう?」
「……それはないわ。いったでしょ? 彼らの目的は”究極の進化”を手に入れることそのためにはアダムはかかせない。目的が達成されるまで殺されることはないわ」
「究極の進化か。いったい究極の進化ってなんなんだ?」
「ここからは私も知らない。ただ私の推測なんだけど、彼らの言う究極の進化が、長い歴史の中で人類が蓄えてきた知識や意識ならそれを拓也から取り出すことはたぶんできないと思うの。それが出来る方法があるとすれば……」
レンと美奈はレイラのその言葉に疑問符を浮かべる。
「あくまで私の考えなんだけど、それは”イブ”」
「イブって聖書にアダムと一緒に出てきた?」
「ええ、彼らからイブという言葉は聞いたことがないから、憶測にすぎないんだけど人類の全ての進化の歴史を持つアダムと異性人の全ての歴史を持つイブがいたとしたら、そしてアダムとイブの間に生まれる子がいるとすれば……それは人類と異性人の全ての歴史を持つ究極の進化をした子になるんじゃないかしら?」
「アダムとイブの間に生まれた……」
「もし私が名前をつけるとしたらその子はまさに”メシア”と呼ぶに相応しい存在なのかも知れないわ」
レンはレイラの言葉を聞きながらも出来る限り冷静に車を運転した。レイラの言葉に多少の動揺はしたが、それを悟られるわけにはいかなかった。彼らの後ろからつけてきている謎の車に気が付いていることを悟られないために。
season8はこれにて終わりです。そしてこの時点でようやく前編が終わりました。次回からはいよいよ中編です。次回はseason9です。よろしくお願いします。