season1-1 脅威の支配者
桃色に彩る桜の花が満開の季節、それは別れの季節でもあり、新しい出会いの季節でもある。
人は出会い、子孫を残し、繁栄してきた。生物学的には普通のこと。でも子孫を残すのはなぜだろう。この星の生命はすべて次の世代に命を繋げ、己はやがて死んでいく。記憶の連鎖とも言うべき繁栄。過去は未来へ面影を残し、未来は新しいモノを生み出していく。そうしてこの星の生命は進化という繁栄をし、生きてきた。
だが……、なんのために?
進化の先にはなにがあるのか……。
すべての生命がたどり着く先とはなんなのか。
誰もその答えを知るものはいない……。
今は……まだ。
「こんちわー!!」
元気のある声で一人の青年が挨拶をした。青年が挨拶をしているのは、とある大学のとあるサークルの部屋に向かってだ。そこに人は誰もいない……。青年は静かに部屋を見渡す、部屋の窓際には金魚が一匹、水槽の中を泳いでいた。
「……部屋間違えたかな?」
青年は部屋の入り口に貼ってある張り紙を見た。そこには『宇宙の謎研究サークル』と書かれている。
「部屋は間違ってないな……。なんで誰もいないんだろ? お〜い! こんちわー!」
すると部屋の隅のほうで何かが落ちる鈍い音がした。
「イタタ……、もうっ!! なんなのよ一体!!」
「ん? 誰あんた?」
床に落ちたのは、女性だった。きれいに茶髪に染まったストレートの髪にクリッとした大きな眼はいかにも今風な感じの可愛らしい女性だった。
「……あ、は、はじめまして! 新井拓也といいます! このサークルに入りたくて来たんです!」
「え? なに? 入りたいの? ていうかもう少し声のボリューム落としてくれない? うっさいんだけど」
「あ、すいません」
見た目の可愛さに似合わず、口の悪い女に拓也は早くも完全にペースを巻き込まれていた。
「で? このサークルに入りたいんだって?」
「あ、はい」
すると女性は手を差し出した。拓也は呆然と立っている。
「なにやってんのよ! サークルの先輩が床に倒れてるんだから起こしなさいよ!!」
「あ!! すいません!!」
拓也は、このときキツイ女の人だと本気で思っただろう。拓也の手を借りて立ち上がった女の人は拓也のほうを見て言った。
「ようこそ、我が『宇宙の謎研究サークル』へ!! 私は、斉藤美奈。よろしくね」
女性の先ほどまでの態度とは違い、きちんとした挨拶に拓也は少しホッとした。
「たっくん……腹減った」
「え?」
突然の言葉の驚き拓也は聞き逃してしまった。
「腹減ったってんだよ!! なんか買って来い!!」
「すいません!!」
この瞬間ホッとしたのは気のせいだということに拓也は気がついた。拓也は急いでなにかを買いに部屋を出ようとした。
「待て!」
美奈の声が、部屋に響く。拓也は恐る恐る美奈の方を見た。
「私は、チャーハンね。ちゃんと温めて来いよ。それと飲み物はスポーツ飲料にしろよ。わかった?」
拓也は少しビビリながら素直に返事をした。この時点で完全に立場が上と下に分かれていた。
「あ、それと……、走れよ?」
「え……?」
「私待たされるのが嫌いなんだよ。だから走って買ってこい!」
もはや完全にビビッている拓也には入ってきた時の元気のよさはなかった。素直に返事をし、拓也は走って食べ物を買いに行った。そしてコンビニで品物を選びながら拓也は思った。あのサークルの支配者は絶対にあの人だと。