season2-4 ハッカー
その部屋には沈黙が走っていた。突然現れた謎の男。彼の雰囲気は空気を張り詰めるのに一役買っていたのだ。妙な威圧感、言葉では言い表せないほどのプレッシャー。拓也はこの男を只者ではないと感じとっていた。
しかし、沈黙は急いで走りきらなければいけない理由があったのか、すぐにいなくなってしまった。そう沈黙はこの声で消されてしまった。
「禁煙」
ただ一言。しかしそれは泣く子も黙る女の発言だった。無視することは許されない。無視することは死を意識させるから。この女に逆らうことは自然の法則に逆らうことになる。しかし、男は自然の法則を無視し、部屋の中へと歩みを進める。無言のまま。
男は拓也の前を通り、美奈の前をも通過した。そして、部屋のパソコンの前までやってくると、拓也と美奈のほうに向きなおし、ついにその口を開いた。
「は――」
彼の声はたった一文字で止められてしまった。パソコンの前にいたはずの男はパソコンの横に山積みにされている本の山に体を沈めていた。そしてパソコンの前には、握り拳を作り、鋭い目で男を睨んでいる女が立っていた。そう、彼の声は美奈の容赦なくそれでいてまったく遠慮のない鋭いパンチによって止められ、同時に彼の体をも吹き飛ばしていた。そして美奈は言った。
「禁煙だっていってんでしょ!」
それを聞いた男は不敵な笑みを浮かべ、着ていた上着ポケットからおもむろになにかを取り出した。それは携帯灰皿だった。男は静かに携帯灰皿にタバコを押し込むとそのままの体制で美奈に言った。
「予想以上にクレイジーな女だな」
それを言い終わると男は美奈の顔を見ながら立ち上がった。そして立ち上がり終わると拓也のほうを見て言った。
「はじめまして、アダム」
その言葉に、拓也の目は丸く大きく見開いた。
アダム――。
その言葉を知っているものの存在に拓也はまるで金縛りにでもあったかのように動けないでいた。辺りに張り詰めた空気が漂う、緊張と束縛が空気を重くしていた。はずだったが、
「なに者アンタ?」
素っ気ないほどの声で聞く美奈。この女には緊張というものがないのか。空気を読む力がないのか。とにかく場の雰囲気を壊す力を持っていた。男は美奈のほうを見て、
「あんたが美奈だろ?クレイジー女」
男は口の端を吊り上げて言う。
「なんであたし達のことを?」
「全部知ってるぜ。あんた達の情報をハッキングしたからな」
その言葉に美奈は少し驚いている。
「おれはハッカーなのさ」
男の口から出た言葉は再び辺りの空気を張り詰めた。
かなり間隔が開いてしまいました。申し訳ありませんでした。また開くことがあると思いますががんばりますので感想、評価頂けると幸いです