一章 琴葉 8 電話
「♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
・・・・・携帯が鳴っている。
ふと目が覚めた。
さっきもこんなことがあったような気がする。
確か恭祐からメールが来た時に目が覚め、そのあと私は泣いていた。
・・・それ以降の記憶がない。
きっと泣き疲れて眠ってしまったのだろう。
「♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
携帯が鳴り続けている。
どうやら電話がかかってきているようだ。誰からだろう。
携帯を開き、表示されている名前を確認する。
時音からの電話のようだ。
携帯に表示されている時刻は9時24分。
こんな時間に何かあったのだろうか。
「・・・・もしもし。」
私は時音からの電話を取った。用件が気になった。
「あ、もしもし。もしかして起しちゃった?」
時音はどことなく申し訳なさそうに言う。
「ううん、大丈夫。何かあったの?」
私は起こされた事自体は別段気にしていなかったが、時音が私を起こしてまで電話してくる理由は気になっていた。
「・・・さっき借りた本のことなんだけどさぁ、すごく面白かった。そんでさ、琴葉がほかにどんな本を読んでるのか気になっちゃって。」
時音はどことなく申し訳なさそうに喋っているような感じがした。
なんだ本の話か。
拍子抜けした。
どんな事件が発生したのかと身構えていて損した。
「それでさ、もう他のこういう本が読みたくて、読みたくてたまらなくなっちゃって。もしよかったらなんだけど、本、借りに行ってもいいかな?」
「今から?」
時音が本の話をするためだけに電話してくるなんてありえないと思ったが、本を貸してくれなんて相談だとは思ってもみなかった。
「・・・うん、できれば、すぐがいいな。」
申し訳なさそうな時音は今までに見たことがなくすごく新鮮だった。
急な話だったが出来れば何とかしてあげたくなった。まあ、いいか。
「・・・いいよ、いつもの分かれ道の所に持ってくね。」
時音の家はそれ程近くはない。なので、近くまで渡しに行ってあげようと思った。
「え、そんな、悪いよ。時間も遅くなっちゃうし。」
とても申し訳なさそうな声だった。
こんなに申し訳なさそうな声を出す時音が面白くて仕方がなかった。
「大丈夫、私もちょっと外に出たい気分だから。」
別にそんな気分では微塵もなかったが、そう言えば時音が納得するだろうと思ったから。
「・・・わかった。ごめんね。家が厳しいからみんな寝てからこっそり行くから、着くのは12時くらいになっちゃうと思うけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ。何冊か持って行くから、そこから好きな奴持って行っていいよ。」
12時は確かに遅いが、そんなことより申し訳なさそうにする時音に会ってみたかった。
「・・・ありがとう、ごめんね。じゃあまたあとで・・・。」
「うん、じゃあね。・・・プツッ、ツー、ツー。」
時音からの電話が切れた。
少し元気が出たような気がした。