一章 琴葉 7 停止
涙の理由は最初からわかっていた。
何よりもしてはいけない事をしていたってことだ。
恭祐に電話したことで、涙は止まるどころか勢いを増していた。
「・・・・・・。」
恭祐は沈黙していた。
「・・・ごめん、なさい・・・・。」
私はただただ謝るしかなかった。
謝ってそれ以上の言葉が続かなくなった。
「・・・・・・もういいよ。・・・・別に怒っているわけじゃないから。」
「え?」
不自然なほど落ち着き払った声で恭祐は喋りだした。
恭祐が何を言っているのかが全く理解できなかった。
理解できなかったというより、その異常な声色のせいで脳が理解するのを拒んだという感じだろう。
私はあまりにも予想外の出来事で間抜けな声を出してしまった。
「・・・・もう少しくらい、ちゃんとした恋人でいられると思ったんだけど。・・・・・・琴葉を壊したら面白いだろうな、きっと。」
「・・・何を言ってるの・・・恭祐、・・・・なんかおかしいよ。」
恭祐の言葉に声色なんてものは無くなっていた。
身の毛もよだつ程の恐怖とはこういうことを言うのだろう。
私はただただ恭祐の言葉を反芻することしかできなかった。
「―――君は今から僕が電話を切るまで僕の言葉だけを馬鹿みたいに集中して聞く、絶対に。」
思考の渦がまるっきり止んだ。
頭の中は『恭祐の言葉を聞く』という一つの事柄だけで満たされていた。
正確に言うと、聞かずにはいられない。そんな状態。
「―――君の脳ではリミッターは全て外れ、痛覚もなくなる。まるで力の加減なんてできない、そんな状態になる。そして、君は嫌いな奴は殺さないと気が済まない人間になる、さらには人を殺すと今までの人生で最高の快感を得られるようになる。」
恭祐が何を言っているのか、そんなことは全く理解できなかった。
ただ恭祐の言葉を聞くと身体は安らぎ、今までに感じたことのない快感に包まれていった。
恭祐の言葉は私の耳を支配し、血管を巡って体中に広がっていった。
それがとてつもなく気持ちがいい。
もっともっと恭祐の言葉を聞いていたい。
「さて、これくらい壊せば十分かな。どんな風になるかな、楽しみだ。愛してるよ琴葉。―――この電話を切ると君はこの電話をしたことを完全に忘れ、意識を失い、一時間後に目覚める。・・・・じゃあ、おやすみなさい、琴葉。・・・・ブチ、・・・ツー、ツー・・・・・。」
意識が遠のく。おかしいな、どうしてだろ・・・・・・。
私は意識を失った。