二章 嫌いな奴は殺すんだ。 2 魔法
「・・・・・崎さんの遺体は現場からなくなっており、警察は何者かが現場から持ち去ったものとして調べを進めています。現場より以上です。」
テレビの音。
ニュースだろうか。
瞼を開ける。
・・・どうやらさっきのベッドの上、身体には毛布が一枚かかっている。
カーテンの間から差し込む光で外が明るい事はわかった。
身体の痛みは不思議なほど消えていた。
・・・動かせる。
私は上体を起こした。
・・・痛みはない。
全身の骨が粉々だと言われたのに、どう考えてもおかしいが痛くないし、動けるのは事実だった。
きっと相当の時間が経ったのだろう。
綾子がベッドの隣で椅子に座ってテレビを見ていた。
「・・おう、やっと起きたか、痛いところ、あるか?」
綾子がテレビの方を凝視したまま、私の方を少しも見ずに言う。
「・・・・私、治ったの?包丁で心臓刺されたんだよ?」
綾子が振り返った。眼鏡をかけている。近眼なのだろうか。
「治ったよ、まあ何とか。多分寿命は20年くらい縮んだんだろうけど。」
気の抜けたような表情で言った。
なんとなく、どことなく、面倒臭そうだ。
「・・・時音。」
大切なことを忘れていた。
時音はどうなったのか。
「ん。」
綾子はテレビの方を指さしていた。
・・・あれだけの人数が死んだんだ、ニュースにならないはずがない。
時音は、どうなったのだろう。
「・・・昨日未明、未来が丘高校の同一クラスに通う二十六名が、同クラスの霧崎琴葉さん、十六歳に殺害される事件がありました。霧崎さんは被害者二十六名を殺害後、被害者の遺体のあった霧崎さんの自宅に火を放ち、その後友人に遺体で発見されました。その後現場では不審な男性が目撃されており、事件との関係性を・・・。」
・・・・おかしい。どうして。
私が殺したのは十三人。
私は家に火なんてつけてない。
このニュースは嘘ばっかりだ。
俯いて考えこんでいると、綾子が私の顔を覗き込んでいる事に気がついた。
「やっぱりおかしいと思ったか?でも、今はこれが事実ってことになってる。」
私にはわからない事が沢山あった。
まず綾子はどうしてこれがおかしいとわかるのか。
「どうしておかしいってわかるの?」
綾子は少しだけ困ったような表情をしたが、少し恥ずかしそうに喋り出した。
「・・・見てたんだ。盗撮のカメラの映像をたまたま傍受して、それから暇な時に見てた。」
なるほど。そういうことか。
とりあえずこの謎は解決。次だ。
「・・・どうやって、あんな状況から私の事をここに連れて来たの?」
どう考えてもおかしい。
時音や、警察、消防士の人も来ただろう。
そんなたくさんの人がいる中で私の死体を持って移動なんて出来るはずがなかった。
綾子はニヤリと笑って、私に向けて言う。
「・・・いや、簡単なことだよ。・・・ちょっとした魔法を使ったんだ。」