二章 嫌いな奴は殺すんだ。 1 全裸
「・・・・・っつ。」
頭の天辺から足のつま先まで余すところなく全てが痛い。
激しい痛みで意識が戻った。
体は動かない。
重い瞼を開けると目の前には見知らぬ女。
年上だろうか、顔からは落ち着いた雰囲気の印象を受ける。
綺麗な長い黒髪で、美しい。
そんな女が私の顔を覗き込んでいた。
「・・・私、生きてるの?」
たくさんの疑問があったが、まず何より私はこの一事が気がかりだった。
「おお、よかった、上手くいってた。・・・ってか、もう喋れんのか。・・・コトハ、だっけ?生きてるよ今は、さっきまで死んでたけど。」
女は風貌に似合わず粗暴な口調で私に答えた。
全身の痛みのおかげで私の意識はハッキリとしていたが、この女が何を言っているのかは理解できなかった。
聞きながら周りを見渡すと普通の住宅の一室のようだった。
ますます状況がわからなくなった。
「まあ、わけわからんだろうな。後でちゃんと説明するから、麻酔かけてもいいか?」
麻酔?
この女、私の体を治してくれてるのか?
言われてみれば全裸にされている。
本当ならもっと驚く所なのだろうが、カメラで時音に裸どころか、性交している所まで見られていた事を知った後だ、今更どうということはない。
・・・・そうだ、時音。
「待って、もう少しだけ質問させて。」
身体が痛い事なんてどうでもよかった。
そんなことよりも今の状況を把握したい。
「・・・・いいよ、まあ、少しくらいなら。」
よかった。
話を聞ける。
ダメだと言われたら体の動かない私なんてまな板の上の鯉だ。
好きなようにされてしまう。
「まずは名前、教えて。」
「俺か?・・・・・今は村上綾子だ。・・・今年で二十八歳の乱暴で男も寄り付かない独身女性だよ。」
意味不明な情報まで手に入れてしまった。
この女の情報を聞き出しても埒が明かなそうだ。
無意味な情報を聞くよりも、まず確かめるべきだった、必要な情報を知っているかどうか。
「・・・綾子さん、あなたは何を知っているの?」
私は核心を尋ねた。
そもそも私は時音に殺された。
だが、今こうしてこの女と会話している。
つまり、この女は何かを知っているはずだ。
「・・・何って、・・・・難しい事聞くなぁ。えーっと、お前がお兄さんに何回もヤラれてた事、・・・盗撮されてた事、・・・いっぱい人を殺した事、あと、・・・・おそらくもう一人いた女の子に殺されただろうってことくらいか。」
やっぱりこの女、知っている。
「時音は、時音はどうなったの?」
私は時音の事が気がかりだった。
時音も十三人殺した。
もしかして捕まってしまったのだろうか。
「時音?・・・ああもう一人の子か。・・・お前が死んだ後の事だよな?・・・・・お前の部屋に自分が殺した死体全部放り込んでお前の家燃やした。そのあとの事は知らねえ。あとでニュース見ればたぶんやるだろ。」
乱雑だが、私の問いには答えてくれた。
時音、心配だ。
まだまだ聞きたいことは山ほどある。
「どうして私を治すの?あなたは私の味方?」
最大の疑問。
何故人殺しだと知っていて私を治すのか。
「んーっ、それはあとで答える。味方かどうかは自分で決めろ。とにかく今は治療だ。お前今全身の骨粉々だぞ。麻酔、かけてもいいか?」
・・・わからない。
全てが意味不明だが、どうやら別に私の敵ではなさそうだ。
「・・・・わかった。好きにして。」
私が答えると、綾子は小さく頷いて注射針を私の腕に刺した。
徐々に意識が遠のいていった。