一章 琴葉 16 憶測
自分で歩ければ時音は家に来なくて済むのに。
そんな思いとは裏腹に身体は一向に言う事を聞いてくれなかった。
動けないのは何故なのか。
そんなこと今はどうでもよかった。
きっと人を殺すのに想像以上に体力を使っていた、とかそんなところだろう。
「・・・琴葉、大丈夫?」
私を背負って歩く時音が言う。
いつもの時音の声と違う。
時音はきっと今歩くのが辛いだろう。
私のために、自分よりも重い荷物を背負って歩いているのだから。
「・・大丈夫、動けないけど。重いでしょ。ごめんね、時音。」
本当に申し訳なかった。
こんな私のために、こんな人殺しのために。
「ううん、重くなんてないよ、軽い、軽い、琴葉スタイルいいから。」
時音は大袈裟に首を横に振りながら言った。
苦しそうだ、早く解放してあげたい。
動かない体がもどかしい。
今、私が人殺しだと告白してしまえば、時音をこの苦しさから解放してあげられるのだろうか。
なんて一瞬考えたが、そんなこと私には出来なかった。
「ごめんね、私のせいで。」
私はただただ謝ることしかできなかった。
「もう少しでつくからね、もうすこし我慢してね。」
時音は優しく言う。
周りの景色なんて見ていなかった。
確かに、もうすぐ家に着いてしまう。
早く、何か方法を見つけないと。
・・・・・・思いつかない。
無理だよ。
だって私は人を殺して、その死体を家に置きっぱなしにして、時音に会いに来たんだから。
このリュックにだって血がいっぱい付いてるし。
もうどうしようもない。
「ほら、着いたよ、琴葉。」
・・・・ついに家の前まで来てしまった。
どうしよう、結局上手い方法なんて何も考え付かなかった。
当たり前のことだ。
私は人殺しなんだから。
人殺しであることを隠す事なんて出来るはずもなかった。
私が人を殺すのを楽しんでいるなんて事を知ったら、時音はどんな顔をするだろう。
私になんて言うんだろう。
私に向かって人殺しって、最低だって言うのかな。
そんなこと時音に言われたら・・・。
私、時音の事、嫌いになっちゃうよ。
私、きっと時音の事、殺したくなっちゃうよ。